ZBC#72 [国造りの要諦] - リー・クアンユー回顧録

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課題図書

今回は2017年10月28日に開催されたZenport Book Club #72の図書の中からリー・クアンユー回顧録をご紹介致します。

リー・クアンユー

シンガポールの国父である彼は、わずか一代で発展途上国だったシンガポールを世界有数の先進国に押し上げた立志伝中の人物です。

彼が行った国造りは、自身の過酷な体験から得られた信念に忠実に基づいて行われたものでした。

そんな彼の信念とは、一体どんなものだったのでしょうか。またそれが培われるキッカケは何だったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • リー・クアンユーの政治哲学の基礎は日本軍の占領下に得たものである。第二次世界大戦時の、日本軍による規律と暴力による統治下では、暴動や混乱がほとんど起こらなかった。この経験から彼は、規律と罰こそが政治には必要であると学んだ。その考えは、シンガポールの法律、統治体系に色濃く影響を与えている。

  • 彼はシンガポール独立前後で、2つの大きな戦いに身を投じる。1つは共産主義者との戦いである。1957年のマレーシア独立時、リー・クアンユーはマラヤ共産党と協力して人民行動党(PAP)を結党する。しかしPAPが政権を取ると、両者の主導権争いが勃発。熾烈な抗争の末に、リーは共産党グループを抑えこむことに成功する。

  • もう1つはマレー至上主義者との戦いである。マレーシア連邦時代、与党である統一マレー国民組織(UMNO)の過度なマレー偏重に対し、華人社会であったシンガポール自治州は反旗を示す。結果マレーシアに追い出される形で、1965年にシンガポールは独立することになる。

  • 独立後、彼が最も力を入れたのは教育であった。資源も無い小国であるシンガポールが発展するには人材こそが頼りであると考えた彼は、持参財教育に多大な投資を行う。その功績は、英語、中国語など複数語を公用語とする多言語教育、シンガポール国立大学を頂点としたエリート教育などの形で体現されている。

  • 彼はシンガポールをアジアのハブとするべく、様々なインフラ構築に取り組んだ。1つは金融センターの設立である。彼はシンガポールをアジアに金融センターにすべく、シティに習う形で金融インフラを構築した。結果、シンガポールは世界4位の金融センターの地位を得るに至る。また彼は物流ハブの構築にも取り組んだ。現在アジアの空の玄関港となっているチャンギ国際空港は、彼が多額の投資を行ったことに起因する。

    参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

リーは信念の人である。彼は西洋諸国からの非難にも屈せず、優れた統治には厳格な統制が必要であるという姿勢を貫いた。何が正解かわからない状況で、彼は信念に従って行動を続けた。その姿勢には尊敬を禁じ得ない。


リーような集団を繁栄させられるリーダーが生まれる土壌は、どうやって構築されるのか。これは「国家はなぜ衰退するのか」を読んで以来の私のイシューの1つである。この問いに対し、私は儒教プロテスタンティズム等の思想によって醸造されるという解を用意したい。勤勉、奉仕、投資などの概念を、生物は自然状態では持ちえない。そのためには思想が必要であると私は思う。その思想として、優れたリーダーの発生に最も貢献してきたのが、儒教またはプロテスタンティズムだというのが私の見解である。

まとめ

今回は、リー・クアンユーの生涯について説いたリー・クアンユー回顧録を取り上げました。

次回はZBC#73で発表されたベストセラーコードをご紹介します。

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国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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ZBC#71 [民主主義の3条件] - 政治の起源

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課題図書

今回は2017年10月25日に開催されたZenport Book Club #71の図書の中から政治の起源をご紹介致します。

著者

フランシス・フクヤマ:1952年アメリカ・シカゴ生まれ。スタンフォード大学 シニア・フェロー。ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。


かのチャーチルは民主主義について、以下の有名な言葉を残しています。

実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。ただし、これまでに試みられてきた民主主義以外の全ての政治形態を除けばだが。

私たちが当たり前のものとして見做している民主主義。これは完全な政治形態と呼ぶことは出来ませんが、民衆への富、自由、平等の還流という点において、他の政治形態より優れいていることは疑いようがありません。

本書の著者であるフランシス・フクヤマは、人類がこの民主主義を獲得するまでの道のり、並びに民主主義が実現するための三条件を明らかにします。

彼がたどり着いた民主主義の核心とはどんなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 近代的民主主義を機能させるには次の3条件が必要である。それは、権力を統合し行使できる国家、法の支配、説明責任を負う政府の3つである。

  • 人類史上最初の国家は紀元前221年の中国大陸に生まれた。始皇帝が統治した秦である。それまでの人類は、親族集団または部族集団という集合体を作るにとどまっていたが、秦は初めて血縁ではなく能力に依拠した官僚制を整備した。ここに人類史上初めて、指揮系統と強制力を持つ主権国家という集団が生まれた。しかし彼らは、法の支配、説明責任を負う政府は導入しなかった。その後現在に至るまで、中国大陸を統一した国家でこの2つを満たすモノは生まれていない。

  • 第2の条件である法の支配は、宗教がきっかけで生まれた。そのきっかけは中世の、神聖ローマ皇帝ローマ教皇の間の叙任権闘争だった。この争いをきっかけとして、権威ある者も法の下で市民と同じように支配されるという考えが生まれた。また英国では、大陸とは別軸で法の支配の概念が生まれた。この根底にはコモン・ローの考え方があった。判決の蓄積により法そのものが進化する特質を持ったコモン・ローと、全国に広がる裁判所の存在が、イギリスに法の支配の意識を植え付けたのだ。

  • 第3の条件である政府の説明責任は、議会制の発達、啓蒙思想による社会契約の概念の発達によって普及した。その中心となったのはイギリスである。イギリスでは、貴族・地主階級・中産階級という有力な市民が、政府(国王)に対して反論を述べるという文化があったため、政府の説明責任が自然と生まれた。これが法の支配と結びつき、名誉革命、その後の議会政治の実現(民主化)につながった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

人間(生物)の集団を、何の知見も無い状態から作ったとして、現代のような国家と法が統治する状態が自然に生まれることはほぼ無い。猿山のような力ある者が支配する集団になることがほとんどだろう。その文脈で言うと、民主主義とは局所的な平衡状態といえる。即ち人間の社会とは、負のエントロピーを食すことで維持されている系と言える。その姿はいかにも人間(生物)らしい。


説明責任を負う政府の存在によって民主主義が発達したという見解は秀逸だ。これは即ちバランスが必要だということを示している。政府が強すぎでは独裁に陥る一方、民衆が強すぎるとポピュリズムになる。最適な状態には常にバランスが求められる。ただ問題はその振り子をどう振るかだ。この点について、汎用的な解を人類はまだ手にしていないように思える。

まとめ

今回は、近代的民主主義を実現する条件について説いた政治の起源を取り上げました。

次回はZBC#72で発表されたリー・クアンユー回顧録をご紹介します。

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中国史(上) (岩波文庫)

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ZBC#70 [ダーウィンの先] - ヒトは病気とともに進化した

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課題図書

今回は2017年10月21日に開催されたZenport Book Club #70の図書の中からヒトは病気とともに進化したをご紹介致します。

著者

太田 博樹:北里大学医学部准教授。東京大学大学院理学系研究科博士課程終了。

長谷川 眞理子 :総合研究大学院大学先導科学研究所教授。東京大学大学院理学系研究科博士課程終了。


私たち人類の歴史のそばにはいつも、病気の存在がありました。

統合失調症結核、ガン。

これらの存在を前にすると、私たちは皆一様に次のような疑問を感じるのではないでしょうか?

なぜ、病気はあるのか?

この問いに対し、本書の著者等は次の答を示します。

すなわち、生物学から見れば健康も病気もそれぞれ1つの状態であり、良し悪しはないと。

ではこの病気という状態はどのような経緯によって起こるのでしょうか?

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 病気がある理由の1つは進化的時間と社会的時間のミスマッチだ。ヒトの体が社会の変化のスピードに適応できないため、そのズレが病気となって発露している。

  • 一方、病気は適応だけで論じることは出来ない。昨今の研究から、一部の遺伝子が疾患と関連があることがわかってきた。遺伝要因がかかる疾患は,単一遺伝子が非常に大きな効果を持つメンデル遺伝性疾患と、多くの遺伝子が少しずつ効果を持つ多因子遺伝性疾患に分類できる.

  • 2010年前後から、ゲノムワイド関連分析(GWAS)というゲノム情報と疾患の関連を統計的に調べる手法が容易に行えるようになった。GWASの注目すべき成果として、ヒトは肥満しにくく方向に進化するに至った事実の解明がある。これはFTOタンパク質の発見によって明らかになった。

  • 精神疾患である統合失調症は他の病気とは一線を画する。多くの病は、年齢、地域によって発症率が異なるが、統合失調症は弱年齢、地域、また時代に関わらずほぼ1%の確立で発症する。この統合失調症の特徴は、平衡淘汰仮説によって説明できる。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

病気とは人類が定義した境界線の向こう側でしかない。昨今、人間の様々な特徴に名前を付け、病気とみなし、それを過剰に保護する動きが時々見られるが、私はこの兆候には反対だ。これらの行為は、疾患1つ無い健康状態こそが自然状態であり、それ以外は全て異常であるという考えを助長すると思う。何か問題がある状態でも、それを自然状態として受け入れる。互いに助けが必要な場合は、周囲の人たちで支え合う。そのような状態こそが、本来あるべき姿ではないだろうか。

まとめ

今回は、病気の歴史について説いたヒトは病気とともに進化したを取り上げました。

次回はZBC#71で発表された政治の起源をご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

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病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解

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がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

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感染源 防御不能のパンデミックを追う

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ZBC#69 [軍事と民間の交差点] - ペンタゴンの頭脳

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課題図書

今回は2017年10月18日に開催されたZenport Book Club #69の図書の中からペンタゴンの頭脳をご紹介致します。

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

著者

アニー・ジェイコブセン:調査報道ジャーナリスト。ロサンゼルス・タイムズ・マガジンの編集に携わるほか、多くの雑誌に寄稿。著書に「エリア51」などがある。


インターネット、GPS,ドローン。

これらの革新的な技術が、実は元々軍事技術として生まれ、後に民間に転用されたことを知っている方も少ないないでしょう。

しかしこれらが、どこで生まれたかを知る人は多くないかもしれません。

その名はDARPA

ペンタゴンの研究機関として存在するこの組織の実態は、未だ謎に包まれています。

今回はそんなDARPAの実態と、彼らが現在注力している分野についてご紹介致します。

要旨

  • DARPA(その前進であるARPA)は米国国防総省の機関として1958年に生まれた。その組織形態は普通の研究機関とは異なる。DARPAには長官の下に150名程度のプロジェクトマネージャーが在籍し、彼らが企業や大学で独立して研究を行っている。DARPAの研究機関というものは存在しない。

  • DARPAが誕生したきっかけはスプートニク・ショックである。当時、ソ連の宇宙技術の発展、並びにその技術の軍事への転用に危機感を覚えた米国は、アイゼンハワー大統領のもと、最先端科学技術を米国軍に転用することを目的としてDARPAを設立した。

  • DARPAで生まれた軍事技術はその後民間に転用され、社会を大きく変容させてきた。インターネット(ARPANET)、GPS、ドローン、これら革新的な技術は全てDARPAが開発し、その後民間に広がったものである。

  • 現在DARPAが力を入れている分野は、ロボット、並びに人間と機会を融合するニューロテクノロジーである。戦場で戦う戦争ロボットの開発は言わずもがな、人間の脳にチップを入れて操作する脳インプラント技術などの開発も進められている。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本著を読み、私は緊張/弛緩と革新の関係性について考えが及んだ。DARPAでこれだけの革新的な技術が生まれたきたのは、米国が戦争という常に緊張を伴う環境に置かれていたことが大きい。その文脈で言うと、緊張が革新を促したと言える。一方で弛緩が革新的なものごとを生み出す事例も歴史上散見される。企業内のサイドプロジェクトとして生まれ、後に本流になったサービスなどがそれにあたる。革新的なモノゴトを生み出す場合、緊張/弛緩はどのように使い分ければ良いのか。ここは一概に答えは出せず、場合分けが必要となるだろう。機を見て掘り下げてみたい。


ニューロンテクノロジーは大変興味深い技術だ。しかし、そもそも脳、特に意識の仕組みというものは未だに解明されてないはずだ。その状況で、どうやって人間を制御しようとしているのか。どの部位にどれほどの電位をかければ、どのような行動を起こすというメカニズムが解明されているのだろうか。この辺については時間をみつけて研究してみたい。

まとめ

今回は、秘密に覆われた研究機関DARPAについて説いたペンタゴンの頭脳を取り上げました。

次回はZBC#70で発表されたヒトは病気とともに進化したをご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで

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帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦 略

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紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

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ZBC#68 [政府の裁量] - 資本主義と自由

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課題図書

今回は2017年10月14日に開催されたZenport Book Club #68の図書の中から資本主義と自由をご紹介致します。

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

資本主義と自由 (日経BPクラシックス)

ミルトン・フリードマンシカゴ学派の経済学者。ノーベル経済学賞受賞者。


新自由主義

フリードマンが1960年代に唱えた、この限りなく小さな政府を志向する考えは、後の指導者に大きな影響を与えました。

例えば英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領は、この思想に影響される形で、国営企業の民営化、規制緩和の徹底を行いました。

日本においても、郵政民営化に代表される小泉政権の政策は、新自由主義の影響を大きく受けていたと言われています。

政府のあり方を根本から問いただし、今なお統治のあり方に対して影響を与えるこの思想のあらましは一体どんなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 経済では市場に任せられることは全て市場に任せるべきである。政府の役割は最低限に止めなければならない。このような考えを新自由主義という。新自由主義における原則は次の2つである。第一に、政府の役割は制限を設けるべきだということ。次に、政府の権力は分散されるべきだということである。

  • 新自由主義によって広まった相対的格差を保障するためには、負の所得税、すなわちベーシックインカムを導入すべきである。

  • 政府は以下の項目を行うべきではない。

    1. 農産物の買取保証価格制度
    2. 輸入関税または輸出制限
    3. 商品やサービスの算出規制
    4. 物価や賃金に対する規制・統制
    5. 法定の最低賃金や上限価格の設定
    6. 産業や銀行に対する詳細な規制
    7. 通信や放送に対する規制
    8. 現行の社会保障制度や福祉
    9. 事業・職業に対する免許制度
    10. 公営住宅及び住宅建設の補助金制度
    11. 平時の徴兵制
    12. 国立公園
    13. 営利目的の郵便事業
    14. 国や自治体が保有する有料道路

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

フリードマン新自由主義には概ね同意するが、一部賛成しかねる。特に輸入関税の撤廃には反対だ。平等(equality)よりも公平(fairness)の方が必要だと考えるからだ。元の体力が違う国家同士で自由貿易を行えば、体力のある国が勝つことになる。それを防ぐのが輸入関税だ。そのおかげで、西欧諸国が覇権を握る世界において、日本、中国、インドなどの国々は発展出来た。もちろん行き過ぎた保護貿易は忌避されるべきだが、強国の論理で途上国を蹂躙することもまた避けられるべきである。


政治の難点は、統計的有意性と再現性の確保が難しいため、一般解を導けないことだと思う。例えば、日本に新自由主義を完全導入したとして、その成果を論じるには10年単位の時間が必要となる。また仮に成果が出たとしても、その事例を他国に導入、または後の時代の同国に導入したところで、同じ結果が得られるとは限らない。サンプルの同質性を担保されておらず、また外部環境も時間が経つことで変わっているからだ。また、政策の非可逆性も大きな問題である。例えば、一度ケインズ主義をとった国家は、既得権益の発生を許すため、自由主義には戻りにくくなる。

すなわち政治とは、科学的検証が出来ない試行の蓄積でしかない。

このような現状で良いのか。私はそうは思わない。国家も今後、科学的な仮説検証を素早く行える集合体に変容すべきだ。そのためにはどうすれば良いのか。それについては長くなるので、また別の機会に個人ブログで論じたい。

まとめ

今回は、新自由主義について説いた資本主義と自由を取り上げました。

次回はZBC#69で発表されたペンタゴンの頭脳をご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

日経BPクラシックス 隷従への道

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自由論 (岩波文庫)

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グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

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雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)

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ZBC#67 [心理と真理の交差点] - マネーの進化史

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課題図書

今回は2017年10月7日に開催されたZenport Book Club #67の図書の中からマネーの進化史をご紹介致します。

著者

ニーアル・ファーガソンハーヴァード大学歴史学教授

マネー

この捉え所のない概念は、人類史を通じて、多くの変化を遂げてきました。

信用創造、債権、株式、保険、不動産。

またマネーの変化に呼応する形で、社会も大きく変化してきました。

人類とマネーが紡いだ歴史、その一部を覗いてみましょう。

要旨

  • 当所、マネーとは貴金属を意味していた。大航海時代、南米を植民地化し大量の銀を手に入れたスペインは隆盛を極める。しかしその後、銀の価格は暴落し、スペイン自体も没落することになる。その原因は、スペイン政府が、価値とは相対的なものだと理解できなかったからである。

  • マネーは銀行と信用創造の誕生によって大きく発展した。14世紀、フィレンチェのメディチ家によって銀行という概念が生まれる。その後、ストックホルム銀行が信用創造という仕組みを作りだした。その結果、実際に存在する貴金属以上のマネーが市場に循環するようになった。

  • マネーは債権の誕生によって更に強化された。また、債権は権力や戦争とも結びついた。債権により多大な権力を手に入れたのがロスチャイルド家である。彼らはヨーロッパ中に張り巡らしたネットワークを用いて債権市場を長きに渡り支配した。また債権の力を使い、ナポレオン戦争南北戦争の趨勢を決めた。

  • 次にマネーは株式という概念を手に入れた。イギリス出身のジョン・ローはフランス王家と協力して、ミシシッピ会社の株式と、関連して中央銀行と紙幣を作った。フランス王家はこのスキームを用いて財政危機を回避しようとした。しかしその運営は、市場操作、粉飾決算を孕んだものだった。後にこの試みは失敗し株式は暴落。王家の財政は更に逼迫した。これが後のフランス革命に遠因となった。

  • 不動産もマネーの一部として重要な役割果たしてきた。歴史上、不動産とは主に貴族、権力者の所有であった。アメリカにおいては、ニューディール政策におけるS&Lによって始めて、個人が住宅を取れる仕組みが整えられた。これは後にサブプライムローンという形で進化する。しかしこれが後の金融危機を引き起こす要因となった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

マネーはエネルギーに似ている。エネルギーには有効エネルギー(仕事として取り出せるエネルギー)という概念がある。マネーにも同様に有効マネーという概念があるように思う。エネルギーにおいては、有効エネルギー率の低いものはヒートポンプを使って再利用されるが、マネーにおいても同じことが行われている。そのポンプの役割を担うのが企業である(行政も)。企業は主要事業によって市場に薄く広がったマネーを引き上げ、他の必要としている場所、例えば基礎研究、新規事業開発、寄付などにマネーを流す。その文脈で言うと、一見すると社会的意義を感じられないような事業も、マネーを回すポンプとしての重要な役割を担っていることが分かる。


マネーとは心理と真理の交差点である。信用という心理的なモノが、揺らぎを許さない真理(数学)によって表現される。マネーとはそれ自体が、アートとサイエンスを内包した存在なのだろう。

まとめ

今回は、マネーの進化について説いたマネーの進化史を取り上げました。

次回はZBC#68で発表された資本主義と自由をご紹介します。

Zenport Book Club #67:その他の発表図書、関連図書

帳簿の世界史

帳簿の世界史

不道徳な見えざる手

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ZBC#66 [意識の外側] - あなたの知らない脳

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課題図書

今回は2017年9月30日に開催されたZenport Book Club #66の図書の中からあなたの知らない脳をご紹介致します。

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

脳と意識

日常生活の中で、私たちは自分の思考や行動が自分の制御下にあると思い込んでいます。

しかし神経科学者であるデイヴィッド・イーグルマン教授は、「私たちの思考や行動の大半は、私たちの意識の支配下に無い」と説きます。

では私たちの行動を司るものは何なのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 私たちの思考や行動の大半は、私たちの意識の支配下に無い。それらは脳が勝手に反応し、行っている活動である。すなわち、私たちの意識は脳の活動を傍観しているにすぎない。

  • 人間の意識は単一的に存在するものではない。私たちの脳内には常の複数の考えが存在し、状況によってある考えが選ばれ表面に出てくる。政党政治に似た意思決定構造が脳の中で行われているのだ。

  • 人間の活動の多くは意識外で行われるため、脳の状態によって犯罪をおかしてしまうこともある。その場合、その責任は問われるべきなのだろうか。結論を言うと犯罪の有責性を問うことは無意味だ。むしろ、犯罪者の厚生に重点を置く刑罰精度について議論することが必要である。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

私たちの思考や行動が意識外にあるのだとすれば、私が今行うべきは、意識下の制御能力を強化することではなく、無意識を意識を使って如何に把握し制御することなのだろう。これは無知の知の精度を上げるプロセスにも似ている。


改めて、脳の構造は社会と似ていると感じた。以前のコネクトームにかかれていたように、何十億という単位から構成されており、その繋がりによって事象が発露する点。また複数の考えを内包し、場面に応じて考えが選ばれる点など類似点が多い。社会を知りたければ、脳を知ることは1つの手段になるかもしれない。もちろん逆もしかりである。

まとめ

今回は、脳の知られざる営みについて説いたあなたの知らない脳を取り上げました。

次回はZBC#67で発表されたマネーの進化史をご紹介します。

Zenport Book Club #66:その他の発表図書、関連図書

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

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意識をめぐる冒険

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コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

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