SBC#37 [国防総省のヨーダ?] - 帝国の参謀
課題図書
今回は2017年5月13日に開催されたSendee Book Club #37の図書の中から帝国の参謀をご紹介致します。
- 作者: アンドリュー・クレピネヴィッチ,バリー・ワッツ,北川知子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2016/04/14
- メディア: 単行本
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国防総省で40年以上要職を勤めてきたアンドリュー・マーシャル氏は、敬意を込めて周囲からこう呼ばれています。
メディアへの露出を極端に嫌うため、彼の存在は日本だけでなく、アメリカでもそれほど知られていません。
しかしながら、彼の存在は戦後の国際政治に大きな影響を与えました。
実際、東西冷戦はマーシャル氏がいなければ、あのような帰結は得なかったと言われています。
その裏にあったのは、彼が生み出した革新的な戦力分析手法、ネットアセスメントでした。
そのネットアセスメントとは、一体どんなモノなのでしょうか?
要旨を見ていきましょう。
要旨
アンドリュー・マーシャルは、ニクソン政権以降の全ての国防長官に仕えた人物である。彼は、ソ連に対するアメリカの戦略策定能力を改善する方法として、ネットアセスメント(総合戦略評価)という分析手法を作り出した。
ネットアセスメントの目的は、彼我の軍事力を正確に計算し、評価することである。以前、軍事力は戦車の台数、ミサイルの基数を、ただ足すだけのビーン・カウンツという方法で評価されていた。しかしこれでは、当然ながら正確な軍事力は評価できなかった。部品の供給体制、背後の産業の、兵の士気など、目に見えない要素を考慮出来てなかったからだ。これらの要素を加味して、正確な軍事力を評価するために、ネットアセスメントは生み出された。
ネットアセスメントの大きな功績の一つが、ソ連の軍事支出の算出だ。CIAは70年代初期のソ連の軍事支出をGNPの6~7%と推定していた。しかしマーシャルは独自の評価で、実際の支出はその2倍以上あり、ソ連の軍事力の持続可能性は低いことを突き止めた。この評価は米軍の戦略に影響を与え、結果、冷戦の早期終結に繋がった。
マーシャルのもう1つの功績は、「軍事における革命」の議論を促したことだ。1980年代当時既に、WW2以来の遺産である戦車や空母だけでは、未来の戦争では不十分であること、情報通信技術の駆使が必須であることを示唆していた。この示唆は、米国が軍事戦略を変革する大きな契機となった。
参加者の見解
本書に対し参加者からは次のような意見が出されました
マーシャルの、無知の知に対する姿勢からは学ぶことが多い。彼は、自分は全てを知らぬことを素直に受入れ、その前提で自分が何を知らず、また何を知るべきかを判断していた。この無知の知は、ビジネスの意思決定でも大変重要なものだろう。自分が何を知らず、どこまで知った上で決断を下すという線引が出来ていないと、無闇に情報を追い求め、気づいたらチャンスを逸している可能性が高いからだ。
マーシャルの、人間の可能性についての言及も含蓄に飛んでいる。彼は「1人の人間が防げる愚行には限りがある」と人間の限界を示唆しながら、一方で、「手柄を気にしなければ、人間はいくらでも優れたことを成し遂げられる」という、人間の底知れぬ可能性をも示唆している。これは彼が、国防という人間性が剥き出しになる最前線で、40年間以上も戦ってきた経験からたどり着いた、人間の可能性の二面性なのだろう。ちなみに二つめの示唆は、西郷南洲が残した言葉と通じるものがある。
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難(かんなん)を共にして国家の大業は成し得られぬなり。」
まとめ
今回は、国防総省のヨーダことマーシャルについて説いた帝国の参謀を取り上げました。
次回はSBC#38で発表されたロレンスがいたアラビアをご紹介します。
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決定の本質 キューバ・ミサイル危機の分析 第2版 1 (日経BPクラシックス)
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