SBC#38 [歴史に翻弄された優しきスパイ] - ロレンスがいたアラビア
課題図書
今回は2017年5月17日に開催されたSendee Book Club #38の図書の中からロレンスがいたアラビアをご紹介致します。
- 作者: スコット・アンダーソン,山村宜子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2016/09/29
- メディア: 単行本
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第一次世界大戦時、アラビアで暗躍したこの者の名は、同題の映画を通して広く知られています。
しかし、彼が実際どんな人物かを知っている人は、あまり多くないでしょう。
オックスフォード大学の考古学者であった彼は、なぜ英国軍の一員としてアラビアに趣き、アラブのために戦ったのでしょうか?
そして彼はなぜ、勝利という果実を手に入れたにも関わらず、悲痛の中で死んでいったのでしょうか?
要旨を見ていきましょう。
要旨
第一次世界大戦中、アラビアは、英国、ドイツ、ロシア、オスマン帝国、アラブ、ユダヤなどの思惑が入り乱れる混沌とした世界だった。その時代、一人の若者が、祖国とアラブ世界の対立の間で苦悩に揺れながらも、自身の正義のためにアラビアを駆け抜けた。その者の名はトーマス・エドワード・ロレンス、通称「アラビアのロレンス」である。
ロレンスは、英国の情報将校としてアラビアに派遣された。その地で、アラブ国家設立を志すフサイン家の三男ファイサルと共に、対オスマン帝国の闘いを進めていく。その過程で、彼はアラブ人の大義に心動かされ、アラブ国家の実現に邁進する。しかしその夢は、英国とアラブの勝利によって実現するかと思われたが、英国の背信と共に潰えた。
アラビアは第一次対戦後、大国間のエゴによって直線で仕切られた。その区切りは民族、宗教を考慮しない無機的なものであった。この負の遺産は今尚、沈静化を見せない中東混乱に、大きく影を落としている。
当時のアラビアにはロレンスだけではなく、各陣営の思惑を肩に載せ、暗躍する若者達がいた。一人はスタンダードオイルの情報員であったアメリカ人のイエール、一人はドイツのスパイであったブリューファー、そしてもう一人はユダヤ国家設立を目論むシオニストのスパイだったアーロンソンである。彼らは、自身が信じる正義のために、混沌するアラビアを駆け抜けた。彼らの残した足跡は今も、今のこの世界のあり方に大きな影響を与えている。
補足
- フサイン=マクマホン協定
1915年に英国が、オスマン帝国の支配下にあったアラブ地域の独立と、アラブ人のパレスチナでの居住を認めた協定。 戦後、サイクス・ピコ協定、バルフォア宣言と矛盾していると糾弾され、大きな波紋を読んだ。またこの矛盾が現代まで続く中東混乱の一因となっている。
1916年に英国、フランス、ロシアの間で結ばれたオスマン帝国の分割を約束した密約。
1917年に英国の外務大臣であるアーサー・バルフォアが、ユダヤ系貴族院議員のライオネル・フォルター・ロスチャイルドに対して送った、シオニズム支持を表明する所感。
参加者の見解
本書に対し参加者からは次のような意見が出されました
国家とは何か、この書籍を読むとそう問わざるを得ない。現代世界の基本は国民国家だ。またその素となるのは言語である。人々は話す言語で国家を形成している。そうであれば、中東は1つか2つの国にまとまってもおかしくない。しかしこの地では、今尚混乱が続いている。これは即ち、国民国家の否定である。となると国家とは何なのか?何を持って構築すべきなのだろうか?
中東問題を見るにつけ、人類最古の文明が生まれたこの肥沃な三日月地帯が、なぜ現代ではこのような姿になってしまったのか、悲しまずにはいられない。改めて共同体を作るのは難しいと感じる。共同体が成功/失敗する理由については、再度考察してみたい。
物語の本筋とは関係ないが、本書はロレンスが英国国王からのナイトの称号を辞退シーンから始まる。この導入は秀逸と言わざるを得ない。今後読み物を書く際の、導入執筆のお手本にしたい。
まとめ
今回は、アラビア世界を駆け抜けた若いスパイについて説いたロレンスがいたアラビアを取り上げました。
次回はSBC#39で発表された感染源をご紹介します。
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