ZBC#43 [砂漠の空中庭園] - イラク建国
課題図書
今回は2017年6月10日に開催されたZenport Book Club #43の図書の中からイラク建国をご紹介致します。
- 作者: 阿部重夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2004/04/25
- メディア: 新書
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かつて人類最古の文明を誇ったこの地も、現在は終わりの見えない混乱の中にあります。
これらの混乱の種はいつ蒔かれたのでしょうか?
この問いに対し著者は、イラク建国時の歪みが原因であると説きます。
その歪みとはどんなものだったのでしょうか?
要旨を見ていきましょう。
要旨
イラクは第一次世界大戦後のオスマン・トルコ解体時に出来た人口国家である。イラク建国は、英国などの戦勝国の身勝手な思惑によって行われた。この際に生じた歪みは、現代まで続くイラク混乱の原因となっている。
歪みの原因の一つは統治体制だ。英国は、統治者として多数派のシーア派ではなくスンニ派を選んだ。またスンニ派出身の国王として、元シリア国王であるハーシム家出身のファイサルを頂いた。この少数派であり、かつ国外から連れてきた者を統治者とした体制は、国内に大きな軋轢を生んだ。
歪みのもう一つの原因は国境線の引き方だ。前述の通り、イラクは多数派のシーア派が被支配民となっている。英国は彼らシーア派の影響力を削ぐため、第三勢力となる北方のクルド人も囲う形で国境線を引いた。これは現代まで続く中東混乱の1つ、クルド人問題の遠因となっている。
イラク混乱は、部族性の強いこのメソポタミアの地に、国民国家の仕組みを無理やり導入したことにも起因する。この歪みは後に、王政崩壊、サダム・フセインによる軍事独裁政権の誕生、イラク戦争、ISの登場という度重なる混乱を引き起こすことと成る。
参加者の見解
本書に対し参加者からは次のような意見が出されました
メソポタミア文明という人類最古の文明が栄えた、かつて肥沃な三日月地帯であったこの地が、今や混乱の地と化しているのは大変嘆かわしい。
国造りは大変難しいものだと思い知らされる。国には、地縁、部族、宗教の三点を考慮した国境線、それと腐敗しない統治体制が必要だ。しかしこれは言うは易く行うは難しである。その点、島国、単一民族、天皇という3つの特徴を有していた日本は、前者の問題に気を揉む必要がなく、後者の問題だけに集中できた。それが、明治期の迅速な近代国家構築に繋がったのだと思う。
少数民族が多数派を支配するという国家体制は、悲劇的な結末を迎えることが多い。イラク、ルワンダがその例だ。グローバル化する世界で多くの民族が交わる国家においては、統治体制とはどうあるべきかを考える際の思考材料にしたい。
まとめ
今回は、人口国家イラクの成り立ちについて説いたイラク建国を取り上げました。
次回はZBC#44で発表されたヒルビリーエレジーをご紹介します。
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