ZBC#56 [康熙帝以来の名君] - 現代中国の父 鄧小平

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課題図書

今回は2017年8月12日に開催されたZenport Book Club #56の図書の中から現代中国の父 鄧小平をご紹介致します。

現代中国の父 トウ小平(上)

現代中国の父 トウ小平(上)

文革以降、中国の最高指導者として国を率いた鄧小平は次の言葉を残しています。

不管黑猫白猫,捉到老鼠就是好猫 (白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である)

この言葉は、イデオロギーではなく、経済発展を優先した彼の考えを端的に表しています。

現代中国、その急激な経済成長は、彼がいなければ無かったと言っても過言ではありません。

その点において、彼は現代中国の父と言っても良いでしょう。

そんな彼の人生とはどのようなものだったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 鄧小平は清の時代であった1904年、四川省に生まれた。彼は16歳のときフランス留学に出て、その地で中国共産党に入党する。その後モスクワを経て帰国し、毛沢東の下でゲリラ活動を開始する。彼はその後、中華人民共和国設立、大躍進政策に至るまで、毛沢東の忠臣として活躍する。

  • 大躍進政策後、毛沢東との対立が深まった鄧小平は、文革時に苦杯をなめる。劉少奇と共に走資派の重要人物として毛沢東サイドから批判された彼は、江西省南昌に追放される。またこの時、鄧とその家族は、紅衛兵から執拗な自己批判を迫られる。その結果、息子である鄧樸方は下半身不随となる。その点において、文革は彼にとって、決して心穏やかとは言えない経験だった。しかし文革後、周恩来の手助けもあり、彼は党内での名誉回復に成功する

  • 文革の終焉、更に毛沢東が没した中国において、彼は華国鋒を退け最高指導者の地位に就く。名実共に中国のトップに立った彼は、中国国民を豊かにさせることが国家の最重要事項であるとの考えに至る。そのため、共産主義というイデオロギーを建前上は維持しつつ、改革開放、市場経済の導入を進めた。この指針が功を奏し、中国は1980年代以降、急激な経済成長を達成することになる。

  • 一方、彼の実績として後世の評価が定まらないのが、六四天安門事件に対する対応である。彼は民主化を求め天安門広場に集まった群衆に対し、武力弾圧に踏み切った。彼は、今の中国には中央で権力を行使し成長を牽引する共産党の存在が必要であり、民主化に踏み切れば、中国はまた混乱に陥ると考えていた。自由と繁栄を天秤にかけた際、彼は迷わず国民の繁栄を選択したのだ。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

鄧小平は、中国の歴史上、国家への貢献という点で言えば、名君と誉れ高い唐の太宗、清の康熙帝に匹敵する。しかも彼らと同じように、王朝の始祖では無いという部分も共通する。国家という枠組みでは、組織の繁栄を担うのは始祖とは限らないということは面白い事象である。


鄧小平のリーダーの資質の一つとして、解くべき本質的な問題を見定める能力が挙げられる。リーダーとは常に様々な環境の変化にさらされる。また同時に、多くの重要らしき問題の誘惑を受ける。しかしリーダーが為すべきことは、解くべき問題を精査し、その解決のみに組織のリソースを使うことである。鄧小平にとっての問題とは、いかに国民を豊かにさせるかであった。彼の行動の一つ一つには、リーダーの要諦が詰まっている。


革命と創業というのは、似て非なるものである。革命の先の、創業のビジョンが無いばかりに、その後に混乱だけが残ることは多々ある。アラブの春などはその典型だ。その点において、鄧小平を指導者として抱けたことは、中国の幸いと言っていい。またこれは、日本にとっても同じことが言える。直近で起こった日本での革命といえば、明治維新、さらに遡ると徳川家康による封建制の確立が挙げられる。そのどちらも、大久保利通等の元勲、徳川家康という、創業のビジョンある指導者を抱けたからこそ、後の発展があった。創業のビジョンある革命家の抱き方、これは引き続き1つの考察テーマとしたい。 余談だが、戦国時代において天下統一後のビジョンがあった大名は織田信長徳川家康だけだったと言われている。その点で言うと、偶然か必然かは分からないが、徳川家康に統一された日本は幸せだったと言える。


本書では鄧小平以外にも、毛沢東を筆頭に数々の現代中国の権力者等の姿が描かれている。その中でも、私に一番の魅力を感じさせたのは周恩来だ。彼の誠実さ、知性、包容力には尊敬を禁じ得ない。彼の姿は、太宗が貞観政要に著した君主の姿に忠実に沿う。リーダーとしてかくあらねばと思わされる次第である。 余談だが、現在中国の総理を務める李克強の姿も、周恩来のそれに重なる。また共に最高指導者ではなくNo2であることも似ている。太宗的リーダーをトップではなく、No2に置くというのが現代中国の組織体制の潮流なのかもしれない。

まとめ

今回は、鄧小平の半生を描いた現代中国の父 鄧小平を取り上げました。

次回はZBC#57で発表されたがん 4000年の歴史をご紹介します。

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