ZBC#58 [記録の誕生] - 紙の世界史
課題図書
今回は2017年8月26日に開催されたZenport Book Club #58の図書の中から紙の世界史をご紹介致します。
- 作者: マークカーランスキー,Mark Kurlansky,川副智子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2016/11/24
- メディア: 単行本
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人類を他の生物と分かつ性質の1つ、それは記録。
私たちはこの記録を通して、文字通り時空を超えて、意思疎通を行うことが出来ます。
しかし、この記録という行為を、なぜ可能になったのでしょうか?
それは他ならぬ紙のおかげです。
この紙は、どのようにして生まれ、どうやって世界に広まっていったのでしょうか?
その歴史を紐解いてみましょう。
要旨
紙は105年、中国出身の蔡倫によって初めて発明されたと言われてている。しかし実は、歴史上で紙を発明したのは彼だけではない。時期は異なれど、紙は世界各地で別々に発明されてきた。これは人類の、記録したいという普遍的な要望によるものだと考えられる。
紙が生まれる以前、人類は書写媒体として、石、羊皮紙、パピルス、タパ等を用いてきた。しかしこれらはセルロースで出来た紙と比較し、ある1点において大きく劣っていた。それは印刷の容易さである。紙は印刷を大変簡単に行うことが出来た。これが、紙が主要な記録媒体としての地位を確立した1つの理由である。
紙と印刷は複数の要請によって、世界に広まった。その1つが宗教である。例えば仏教は、それを書き写すこと自体が功徳を積むための行為であると考えられていたため、書写が広く行われた。またイスラム教では、コーランの教えを口承を超えて世界に広めるため、積極的に写本が行われた。
紙は経済をも大きく進歩させた。紙幣の発明は言うまでもなく、紙は会計(帳簿)という概念も生み出した。それだけでなく、紙は数学自体を普及、発展させた要因でもある。アラビア数字は、紙によってアラブからヨーロッパに持ちこまれた。これがヨーロッパの地における数学の発展に大きく寄与した。
参加者の見解
本書に対し参加者からは次のような意見が出されました
本書では、「テクノロジーは促進策にすぎない。変わるのは社会であり、社会の変化が新たな需要を生む。それが、テクノロジーが導入される理由である」という立場を取る。私はこの意見には賛成である。世界を変えるのはテクノロジーではない。それはいつも、こうありたいという人々、その集合体である社会の、声なき願いだ。しかしだからといって、需要が顕在化していないテクノロジーを生み出すことは無駄ではない。需要が顕在化したときに、既存のテクノロジーを組合せて、その需要を満たすことはままあるからである。
紙は、国民国家誕生の遠因にもなったと言える。紙によって人類は記録する術を手にいれ、時空を超えて言葉を共有出来るようになった。これが「同じ言語を共有する集団」としての国民国家を生み出したと考えられるからだ。その意味において、ナショナリズム、それに起因する戦争が、この一枚の紙によるというのは、少々奇怪であると共に面白くもある。
まとめ
今回は、紙の歴史を綴った紙の世界史を取り上げました。
次回はZBC#59で発表されたグローバル経済の誕生をご紹介します。
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