ZBC#71 [民主主義の3条件] - 政治の起源

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課題図書

今回は2017年10月25日に開催されたZenport Book Club #71の図書の中から政治の起源をご紹介致します。

著者

フランシス・フクヤマ:1952年アメリカ・シカゴ生まれ。スタンフォード大学 シニア・フェロー。ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。


かのチャーチルは民主主義について、以下の有名な言葉を残しています。

実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。ただし、これまでに試みられてきた民主主義以外の全ての政治形態を除けばだが。

私たちが当たり前のものとして見做している民主主義。これは完全な政治形態と呼ぶことは出来ませんが、民衆への富、自由、平等の還流という点において、他の政治形態より優れいていることは疑いようがありません。

本書の著者であるフランシス・フクヤマは、人類がこの民主主義を獲得するまでの道のり、並びに民主主義が実現するための三条件を明らかにします。

彼がたどり着いた民主主義の核心とはどんなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 近代的民主主義を機能させるには次の3条件が必要である。それは、権力を統合し行使できる国家、法の支配、説明責任を負う政府の3つである。

  • 人類史上最初の国家は紀元前221年の中国大陸に生まれた。始皇帝が統治した秦である。それまでの人類は、親族集団または部族集団という集合体を作るにとどまっていたが、秦は初めて血縁ではなく能力に依拠した官僚制を整備した。ここに人類史上初めて、指揮系統と強制力を持つ主権国家という集団が生まれた。しかし彼らは、法の支配、説明責任を負う政府は導入しなかった。その後現在に至るまで、中国大陸を統一した国家でこの2つを満たすモノは生まれていない。

  • 第2の条件である法の支配は、宗教がきっかけで生まれた。そのきっかけは中世の、神聖ローマ皇帝ローマ教皇の間の叙任権闘争だった。この争いをきっかけとして、権威ある者も法の下で市民と同じように支配されるという考えが生まれた。また英国では、大陸とは別軸で法の支配の概念が生まれた。この根底にはコモン・ローの考え方があった。判決の蓄積により法そのものが進化する特質を持ったコモン・ローと、全国に広がる裁判所の存在が、イギリスに法の支配の意識を植え付けたのだ。

  • 第3の条件である政府の説明責任は、議会制の発達、啓蒙思想による社会契約の概念の発達によって普及した。その中心となったのはイギリスである。イギリスでは、貴族・地主階級・中産階級という有力な市民が、政府(国王)に対して反論を述べるという文化があったため、政府の説明責任が自然と生まれた。これが法の支配と結びつき、名誉革命、その後の議会政治の実現(民主化)につながった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

人間(生物)の集団を、何の知見も無い状態から作ったとして、現代のような国家と法が統治する状態が自然に生まれることはほぼ無い。猿山のような力ある者が支配する集団になることがほとんどだろう。その文脈で言うと、民主主義とは局所的な平衡状態といえる。即ち人間の社会とは、負のエントロピーを食すことで維持されている系と言える。その姿はいかにも人間(生物)らしい。


説明責任を負う政府の存在によって民主主義が発達したという見解は秀逸だ。これは即ちバランスが必要だということを示している。政府が強すぎでは独裁に陥る一方、民衆が強すぎるとポピュリズムになる。最適な状態には常にバランスが求められる。ただ問題はその振り子をどう振るかだ。この点について、汎用的な解を人類はまだ手にしていないように思える。

まとめ

今回は、近代的民主主義を実現する条件について説いた政治の起源を取り上げました。

次回はZBC#72で発表されたリー・クアンユー回顧録をご紹介します。

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