ZBC#75 [生命の再定義] - CRISPER

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課題図書

今回は2017年11月18日に開催されたZenport Book Club #75の図書の中からCRISPERをご紹介致します。

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか

フランスの画家ポール・ゴーギャンが絵画に込めたこの問いは、今でも人類の眼前に鎮座しています。

近年、この問いに対し1つの示唆を示す技術が生まれました。

その名はCRISPER-Cas9、通称CRISPERと呼ばれるゲノム編集技術です。

この技術は私たちの世界をどう変えようとしているのか。

またこの技術誕生の裏側にはどんなドラマがあったのでしょうか。

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • CRISPER-Cas9とは革新的な遺伝子編集技術である。これはUCバークレーのダウドナ教授による、RNAの研究中に見つかった。DNAには数十文字の繰り返し配列があり、これはCRISPER配列と呼ぶ。また、このCRISPER配列の近くにはCasという遺伝子グループが存在し、これが外界から侵入したウイルスを破壊する。その中でもCas9と呼ばれるたんぱく質が最も重要な役割を担い、これはガイドRNAの指示に従い、ウイルスのDNAを切断する。CRISPER-Cas9とは、このガイドRNA+Cas9の能力を、自身の遺伝子の編集に応用した技術である。

  • CRISPER-Cas9(以降:CRISPER)が革新的な理由は、その簡易性かつ低価格性にある。従来のゲノム編集技術であるZFN, TALENは利用に習熟が必要であり、かつ利用費も高額であった。しかしCRISPERは高校生でも簡単に扱えるほど簡単な技術であり、利用料も格段に安い。

  • CRISPERの応用先としては以下の分野が考えられる。1つは動植物の改変である。角の無い牛や、干ばつ耐性のあるとうもろこしなど、その応用先は枚挙に暇がない。もう1つは病気の治療だ。これについては体細胞から治癒するか、生殖細胞から治癒するかという問いがつきまとう。後者の場合のほうが、根本から治癒できるため効果が高いが、一方で遺伝情報を直接編集するため、倫理的な問題がつきまとう。

  • 言わずもがな、CRISPERは負の側面も孕んでいる。ヒトラーが進めた優生学に結びつく可能性もある。かつて原子爆弾を生み出したオッペンハイマーは原爆投下後、「科学者は罪を知った」という言葉を残したと言われている。その文脈で述べると、科学者、いや人類は、今また新しい罪を背負おうとしているのかもしれない。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

ゲノム編集は、デザイナーベイビーの是非の議論と切っても切り離せない。私はデザイナーベイビーの誕生には賛成である。優れた性質を持って生まれたい、そんな子供を産みたいという願望は人間の根本的な欲求であり、認められるべきだとかんがえられるだ。


人工知能の発達によって人類の存在意義が問われている時代に、人類の再定義を行う技術が現れたことは大変興味深い。私たち人間は今、何をすべきか、何が出来るかを問われているのだろう。


本書には、ダウドナ教授、自身の正統性を世論に示す意図もあるように思える。実は、CRISPERの特許については、ダウドナ教授とMITのチャン教授の間で争いが行わている。現在、後者のチャン教授に分がある状況だ。このような背景があったからこそ、本書を出版し世論を味方につけようとしたのではないかと考えられる。個人的には、先に発見したダウドナ教授等を支持したい。

まとめ

今回は、ゲノム編集の革新的な技術について説いたCRISPERを取り上げました。

次回はZBC#76で発表された大暴落1929をご紹介します。

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