ZBC#62 [6万年前のロマンス] - ネアンデルタール人は私たちと交配した

f:id:kaseda_toshihiro:20170909112215j:plain

課題図書

今回は2017年9月13日に開催されたZenport Book Club #62の図書の中からネアンデルタール人は私たちと交配したをご紹介致します。

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人

現生人類であるホモ・サピエンスの亜種であるこの種は、長らく謎に包まれていました。

しかし、2010年にサイエンス誌に掲載されたある発見が世界を揺るがします。

それは、アフリカ大陸以外に住む現生人類のゲノムに、ネアンデルタール人の遺伝子が数%混入しているというものでした。

これはすなわち、我々現生人類とネアンデルタール人は交配していたことを意味します。

では、数万年前、私たちと彼らはどうやって交わったのでしょうか。

そして、その発見の裏にあった、ある科学者の30年以上に及ぶ苦闘とはどんなものだったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 2010年、スヴァンテ・ペーボ博士等は、現生人類のゲノムには、ネアンデルタールのDNAが2~3%入っていることをサイエンス誌に投稿した。これはすなわち、我々現生人類とネアンデルタール人が交配していたことを意味している。初めての邂逅はおよそ6万年前、場所は中東周辺だと考えられている。

  • 本発見のためには、2つの問題を解決する必要があった。1つはDNAを必要量得ることである。既に死んだ生物のDNAは構造を維持しておらずDNAを回収しづらい。またそもそもネアンデルタール人の骨はあまりにも少なかった。この困難とも言える状況で、ペーボ博士は、DNA増幅技術「次世代シーケンサー」を発明し、同じ骨量から数百倍のDNAを回収することに成功する。

  • もう1つは現代のDNAの混入を防ぐことである。古代のDNAを分析するには、それと現代のDNAを分離する必要がある。しかしこれは相当に困難な作業であり、この困難な作業を怠らず、愚直に行ったことにより、人類史に残る業績は果たされたのだ。

  • ネアンデルタール人のDNA解析を完了した、ペーボ博士はその後新たな発見を行った。それはデニソワ人の発見である。彼によると、デニソワ人は現生人類よりネアンデルタール人に近い種であったらしい。まず現生人類と、デニソワ人とネアンデルタール人の祖先が分岐し、その後両者が分岐したと考えられている

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

生命・エネルギー・進化で描かれていた研究者像と重なる。つくづく、持てる技術を駆使し、人類とは何かという壮大な問いに、神という安易な逃げ道を作らず、愚直に向き合う研究者には尊敬の念を禁じ得ない。


本書を読んで感じたことは、なぜ種の分岐はなぜ起こるのか、というものだ。種の中での進化と、種自体の分岐は何が違うのか。その辺について、折をみて研究を行いたい。

まとめ

今回は、ネアンデルタール人と現生人類とのつながりについて説いたネアンデルタール人は私たちと交配したを取り上げました。

次回はZBC#63で発表された10万年の世界経済史をご紹介します。

Zenport Book Club #62:その他の発表図書、関連図書

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史

そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#61 [複雑系とチーム] - TEAM OF TEAMS

f:id:kaseda_toshihiro:20170903235946j:plain

課題図書

今回は2017年9月9日に開催されたZenport Book Club #61の図書の中からTEAM OF TEAMSをご紹介致します。

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

  • 作者: スタンリー・マクリスタル,タントゥム・コリンズ,デビッド・シルバーマン,クリス・ファッセル,吉川南,尼丁千津子,高取芳彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る

チームビルディング

マネジメントの中心と言っても良いこのテーマは、現在大きな転換点を迎えていると著者は説きます。

すなわち「計画・実行型」組織から「適応型」組織への転換が必須であると。

その事実を、元米軍大将である著者は、自身の戦地での経験を基に解き明かします。

ではなぜ、現代では求められる組織が変わっているきているのでしょうか。

またその組織を構築するためにリーダーに求められる能力とは何なのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 情報が世界を瞬時に周り、状況が絶え間なく変化する現代においては、指揮系統型の組織では環境変化に対応できない。このような複雑系の社会では、1つのチームの中に少数のチームが存在する組織(TEAM OF TEAMS)を作る必要がある。

  • 産業革命以降主流だったテイラーの科学的管理手法は、反復可能なプロセスを高効率で実施する場面では有効的だった。しかしこれは、変化が激しい現代では機能しなくなっている。現代の複雑さは予測不可能なため、計画と予測に基づく要素還元主義的マネジメントでは対応できない。

  • 状況に応じて、現場の人間が自由に対応する組織を作るには、情報共有の透明性を高める必要がある。ビジョンの共有、戦略の共有、最新状況の共有という各レイヤーの情報を全メンバーに共有する必要がある。

  • 現代のリーダーに求められるのは、菜園主的リーダーシップである。メンバーを見守りつつも手は出さない。組織が活動する生態系を作り、維持することがリーダーの役割となる。これは従来の、指揮系統型のリーダー像とは大きく異るものである。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本書もイーロン・マスクも言っていることは同じである。すなわち、複雑系ではトップダウンは通用しない。個が自発的に動く必要がある。それに必要なのが、組織のビジョンの共有であり、組織のビジョンと個人のモチベーションの同調なのだ。


ハンニバル、ナポレオン、信長のようなリーダーに憧れる自分としては、現代で求められるリーダー像が彼らとは異なるという事実は少々残念である。しかしそれが時代の要請であれば従うほかない。

まとめ

今回は、複雑系におけるチームのあり方について説いたTEAM OF TEAMSを取り上げました。

次回はZBC#62で発表されたネアンデルタール人は私たちと交配したをご紹介します。

Zenport Book Club #61:その他の発表図書、関連図書

|新訳|科学的管理法

|新訳|科学的管理法

経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

複雑系入門―知のフロンティアへの冒険

複雑系入門―知のフロンティアへの冒険

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#60 [フランス革命のきっかけ] - 帳簿の世界史

f:id:kaseda_toshihiro:20170901233242j:plain

課題図書

今回は2017年9月6日に開催されたZenport Book Club #60の図書の中から帳簿の世界史をご紹介致します。

帳簿の世界史

帳簿の世界史

帳簿

古くから商業で使われていたこの手法は、14世紀のイタリアにおいて非連続的な変化を起こします。

すなわち、複式簿記の誕生です。

かの有名なブルボン朝も、この複式簿記によって隆盛を極めた一方、その杜撰な扱いによって、フランス革命によって打倒されたと言われています。

帳簿、そして複式簿記が作りだした人類史。その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 帳簿の歴史は、そのまま人類の文明の歴史である。メソポタミア文明の遺産には、既に帳簿の記録を垣間見ることが出来る。その後、古代ギリシャ古代ローマでも帳簿は広く用いられた。しかしそれらは往々にして不正に満ちていた。しかし、この状況を打破するあるイノベーションが、中世イタリアで生まれた。それは複式簿記である。これは当時、イタリア商人が共同出資方式を用いて貿易を行っていたことに端を発する。

  • フィレンツェのコジモ・デ・メディチは、会計技術を駆使し自身の銀行の支店を欧州の主要都市へ発展させることで、欧州一の富豪となった。しかしメディチ家ルネサンス期に没落する。その原因は思想と商業の対立であった。当時流行していたプラトン思想は、芸術や文化を重視し、商業を忌避した。彼の後継者も同様に芸術に傾倒し監査を疎かにした。その結果、メディチ家は没落することになった。

  • 帳簿は王国の発展と衰退を招いた原因である。ルイ14世統治下のフランスはコルベールという宰相のもと、会計技術を国家運営に取り入れ、国家を発展させた。しかしコルベールの死後以降、会計技術を不正を明らかにするものと気づいたルイ14世は、それを遠ざけることになる。これが後のフランス革命の要因となる。

  • 帳簿は商業国家の栄枯盛衰を招いた。オランダ、イギリス、アメリカなどのヘゲモニー国家が覇権を握れたのは、会計技術を政権運営に上手く取り入れたからである。一方で皮肉なことに、彼らの衰退を招いた原因は、不適切に会計を行ったことであった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

紙が生まれ、アラビア数字が生まれ、数学が生まれ、複式簿記が生まれ、銀行が生まれ、株式会社が生まれた。後に、ビットコインが生まれた。人の渇望と技術の進歩。それが推し進める時代の流れと文明の発展。私達が今立つこの場所は、点では無く線であることがよく分かる。人・技術・地政学が織りなす時代。人類史という線の有り様が、朧気ながら浮かび上がってきた気がする。


帳簿の裏に潜む栄枯盛衰の歴史は、テクノロジーを活かすも殺すも扱うもの次第であることを表している。火、ダイナマイト、核分裂と同じだ。人の性は巡るが、技術は進歩する。結果的に、変わっていないように見えて、実は人類史は前に進んでいる。

まとめ

今回は、帳簿の歴史について説いた帳簿の世界史を取り上げました。

次回はZBC#61で発表されたTEAM OF TEAMSをご紹介します。

Zenport Book Club #60:その他の発表図書、関連図書

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#59 [世界は廻る] - グローバル経済の誕生

f:id:kaseda_toshihiro:20170826155233j:plain

課題図書

今回は2017年9月2日に開催されたZenport Book Club #59の図書の中からグローバル経済の誕生をご紹介致します。

グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)

グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)

グローバル経済

この言葉は現代特有のモノと思われがちですが、実は600年以上もの歴史を有する言葉です。

その歴史を精緻に紐解いた、本書の著者であるケネス・ポメランツ教授は、グローバル経済をある1つの言葉で表します。

それは暴力

彼は、グローバル経済の進展においては、常に暴力を振るう者が富を手に入れてきたと断じます。

では、暴力はどのようにしてグローバル経済の中で影響力を誇ってきたのでしょうか?

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 経済のグローバル化とは、現代特有の非連続的変化ではない。それは1400年代以来、脈々と続く漸次的変化である。

  • グローバル経済において大きな役割を担ってきたもの、それは暴力である。西欧がグローバル経済において覇権を握れたのは、疫病を用いて新大陸の原住民を死に至らしめたからだ。また、アフリカ大陸出身の大量の奴隷を、新大陸において労働力として酷使したからでもある。グローバル経済においては、モラルの有無は関係なく、暴力を振るうものが果実を手にしてきた。

  • グローバル経済を進展させたのはドラッグ的商品であった。薬として用いられたチョコレート、老若男女を虜にする砂糖、またアヘンなどのドラッグそのものが、グローバル経済を大きく発展させた。

  • 日本の開国の歴史も、世界史の文脈から見ると大変興味深く浮かび上がる。そのキッカケはアメリカでのゴールドラッシュだった。西海岸に金が出るという噂が、いまだ未開の場所であったこの地への資本の集積を実現させた。その資本力はそのまま、太平洋諸国への進出を促す。その動きはハワイ併合へとつながり、後の黒船来日、日米和親条約へと連なっていく。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

グローバル経済の歴史においては、暴力が富を手にする最良の手段だったという事実は残酷なものだ。ただこれは法の概念、人権の概念が不十分だったからだろう。現在においては、アングラな世界を除き、暴力が占める割合は些末なものになっていると考えられる。人類の残酷さと、少しばかりの希望を垣間見れる事象である。


情報、カネ、モノ。IT化によって、グローバル経済は最初の2つを場所の縛りから開放した。しかし未だにモノの移動のみは、場所の縛りを免れていない。私はここにグローバル経済の完成の糸口があるように思える。

まとめ

今回は、グローバル経済の誕生について説いたグローバル経済の誕生を取り上げました。

次回はZBC#60で発表された帳簿の世界史をご紹介します。

Zenport Book Club #59:その他の発表図書、関連図書

暴力の人類史 上

暴力の人類史 上

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#58 [記録の誕生] - 紙の世界史

f:id:kaseda_toshihiro:20170819202014j:plain

課題図書

今回は2017年8月26日に開催されたZenport Book Club #58の図書の中から紙の世界史をご紹介致します。

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

人類を他の生物と分かつ性質の1つ、それは記録

私たちはこの記録を通して、文字通り時空を超えて、意思疎通を行うことが出来ます。

しかし、この記録という行為を、なぜ可能になったのでしょうか?

それは他ならぬのおかげです。

この紙は、どのようにして生まれ、どうやって世界に広まっていったのでしょうか?

その歴史を紐解いてみましょう。

要旨

  • 紙は105年、中国出身の蔡倫によって初めて発明されたと言われてている。しかし実は、歴史上で紙を発明したのは彼だけではない。時期は異なれど、紙は世界各地で別々に発明されてきた。これは人類の、記録したいという普遍的な要望によるものだと考えられる。

  • 紙が生まれる以前、人類は書写媒体として、石、羊皮紙、パピルス、タパ等を用いてきた。しかしこれらはセルロースで出来た紙と比較し、ある1点において大きく劣っていた。それは印刷の容易さである。紙は印刷を大変簡単に行うことが出来た。これが、紙が主要な記録媒体としての地位を確立した1つの理由である。

  • 紙と印刷は複数の要請によって、世界に広まった。その1つが宗教である。例えば仏教は、それを書き写すこと自体が功徳を積むための行為であると考えられていたため、書写が広く行われた。またイスラム教では、コーランの教えを口承を超えて世界に広めるため、積極的に写本が行われた。

  • 紙は経済をも大きく進歩させた。紙幣の発明は言うまでもなく、紙は会計(帳簿)という概念も生み出した。それだけでなく、紙は数学自体を普及、発展させた要因でもある。アラビア数字は、紙によってアラブからヨーロッパに持ちこまれた。これがヨーロッパの地における数学の発展に大きく寄与した。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本書では、「テクノロジーは促進策にすぎない。変わるのは社会であり、社会の変化が新たな需要を生む。それが、テクノロジーが導入される理由である」という立場を取る。私はこの意見には賛成である。世界を変えるのはテクノロジーではない。それはいつも、こうありたいという人々、その集合体である社会の、声なき願いだ。しかしだからといって、需要が顕在化していないテクノロジーを生み出すことは無駄ではない。需要が顕在化したときに、既存のテクノロジーを組合せて、その需要を満たすことはままあるからである。


紙は、国民国家誕生の遠因にもなったと言える。紙によって人類は記録する術を手にいれ、時空を超えて言葉を共有出来るようになった。これが「同じ言語を共有する集団」としての国民国家を生み出したと考えられるからだ。その意味において、ナショナリズム、それに起因する戦争が、この一枚の紙によるというのは、少々奇怪であると共に面白くもある。

まとめ

今回は、紙の歴史を綴った紙の世界史を取り上げました。

次回はZBC#59で発表されたグローバル経済の誕生をご紹介します。

Zenport Book Club #58:その他の発表図書、関連図書

紙と人との歴史:世界を動かしたメディアの物語

紙と人との歴史:世界を動かしたメディアの物語

ルネサンスの歴史 (上) 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

ルネサンスの歴史 (上) 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#57 [終わりなき闘いの歴史] - がん 4000年の歴史

f:id:kaseda_toshihiro:20170813124634j:plain

課題図書

今回は2017年8月19日に開催されたZenport Book Club #57の図書の中からがん 4000年の歴史をご紹介致します。

がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

数千年に及ぶ人類の文明の歴史。その過程で、私達は多くの病気を克服してきました。

ペスト、コレラ結核

かつて多くの人々を死に至らしめたこれらの病も、ついぞ医学の前に白旗を挙げたのです。

しかし今尚、人類を苦しめ続けるある怪物が、私達の前に鎮座しています。

その名はがん

古代エジプトの時代から存在が確認されていたこの病は、未だに解決の糸口を見せていません。

このがんに対して、人類はどう対峙してきたのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • がんは古代エジプトの時代からその存在は知られていたが、初めてそれに名前が与えられたのは古代ギリシャ時代、医聖ヒポクラテスによってであった。

  • がんは長らく体液の異常により起こるものだと考えられていた。がんの正体が明らかになったのは20世紀という実に最近のことである。その正体は、遺伝子の突然変異の蓄積であった。

  • 医学の歴史の中で、がんに対する多くの治療法が開発された。ウィリアム・ハルステッドはメスを用いた施術を生み出した。また、シドニー・ファーバーは化学療法を生み出した。

  • がんに対する予防方法も考えられた。その第一が禁煙であった。喫煙とガン発生の間に有意な相関が見られていたからだ。しかし、禁煙の動きを広めるには、タバコ業界という既得権益との戦いが待ち受けていた。

  • がんの歴史とは、それに立ち向かった医師の歴史だけではない。この叙事詩の本当の主役は、がんとの戦いの最前線に望んだ患者たちだった。彼らの勇気によって、人類はがんに対する武器を手に入れることができた。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

がんに挑む人類の歴史は、科学革命の構造で説かれた進化の形そのものだ。進歩派と守旧派の間で起こる混乱、それを経たパラダイム変換。がんの歴史とは、科学の歴史、ひいては人類の歴史の写し絵であることがよく分かる。


なぜがんというモノは生まれたのか。生命というものは、互いに系内では対立しながらも、系としては平衡を保ってきた。しかしがんの存在はその原則から逸脱する。そのような存在を、なぜ生命は生み出したのか。数の暴走をとめるための自己保存機構なのだろうか。この辺については折を見て研究してみたい

まとめ

今回は、がんの歴史を描いたがん 4000年の歴史を取り上げました。

次回はZBC#58で発表された紙の世界史をご紹介します。

Zenport Book Club #57:その他の発表図書、関連図書

The Gene: An Intimate History

The Gene: An Intimate History

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

死すべき定め――死にゆく人に何ができるか

ゲノムが語る23の物語

ゲノムが語る23の物語

科学革命の構造

科学革命の構造

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com

ZBC#56 [康熙帝以来の名君] - 現代中国の父 鄧小平

f:id:kaseda_toshihiro:20170805221542j:plain

課題図書

今回は2017年8月12日に開催されたZenport Book Club #56の図書の中から現代中国の父 鄧小平をご紹介致します。

現代中国の父 トウ小平(上)

現代中国の父 トウ小平(上)

文革以降、中国の最高指導者として国を率いた鄧小平は次の言葉を残しています。

不管黑猫白猫,捉到老鼠就是好猫 (白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である)

この言葉は、イデオロギーではなく、経済発展を優先した彼の考えを端的に表しています。

現代中国、その急激な経済成長は、彼がいなければ無かったと言っても過言ではありません。

その点において、彼は現代中国の父と言っても良いでしょう。

そんな彼の人生とはどのようなものだったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 鄧小平は清の時代であった1904年、四川省に生まれた。彼は16歳のときフランス留学に出て、その地で中国共産党に入党する。その後モスクワを経て帰国し、毛沢東の下でゲリラ活動を開始する。彼はその後、中華人民共和国設立、大躍進政策に至るまで、毛沢東の忠臣として活躍する。

  • 大躍進政策後、毛沢東との対立が深まった鄧小平は、文革時に苦杯をなめる。劉少奇と共に走資派の重要人物として毛沢東サイドから批判された彼は、江西省南昌に追放される。またこの時、鄧とその家族は、紅衛兵から執拗な自己批判を迫られる。その結果、息子である鄧樸方は下半身不随となる。その点において、文革は彼にとって、決して心穏やかとは言えない経験だった。しかし文革後、周恩来の手助けもあり、彼は党内での名誉回復に成功する

  • 文革の終焉、更に毛沢東が没した中国において、彼は華国鋒を退け最高指導者の地位に就く。名実共に中国のトップに立った彼は、中国国民を豊かにさせることが国家の最重要事項であるとの考えに至る。そのため、共産主義というイデオロギーを建前上は維持しつつ、改革開放、市場経済の導入を進めた。この指針が功を奏し、中国は1980年代以降、急激な経済成長を達成することになる。

  • 一方、彼の実績として後世の評価が定まらないのが、六四天安門事件に対する対応である。彼は民主化を求め天安門広場に集まった群衆に対し、武力弾圧に踏み切った。彼は、今の中国には中央で権力を行使し成長を牽引する共産党の存在が必要であり、民主化に踏み切れば、中国はまた混乱に陥ると考えていた。自由と繁栄を天秤にかけた際、彼は迷わず国民の繁栄を選択したのだ。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

鄧小平は、中国の歴史上、国家への貢献という点で言えば、名君と誉れ高い唐の太宗、清の康熙帝に匹敵する。しかも彼らと同じように、王朝の始祖では無いという部分も共通する。国家という枠組みでは、組織の繁栄を担うのは始祖とは限らないということは面白い事象である。


鄧小平のリーダーの資質の一つとして、解くべき本質的な問題を見定める能力が挙げられる。リーダーとは常に様々な環境の変化にさらされる。また同時に、多くの重要らしき問題の誘惑を受ける。しかしリーダーが為すべきことは、解くべき問題を精査し、その解決のみに組織のリソースを使うことである。鄧小平にとっての問題とは、いかに国民を豊かにさせるかであった。彼の行動の一つ一つには、リーダーの要諦が詰まっている。


革命と創業というのは、似て非なるものである。革命の先の、創業のビジョンが無いばかりに、その後に混乱だけが残ることは多々ある。アラブの春などはその典型だ。その点において、鄧小平を指導者として抱けたことは、中国の幸いと言っていい。またこれは、日本にとっても同じことが言える。直近で起こった日本での革命といえば、明治維新、さらに遡ると徳川家康による封建制の確立が挙げられる。そのどちらも、大久保利通等の元勲、徳川家康という、創業のビジョンある指導者を抱けたからこそ、後の発展があった。創業のビジョンある革命家の抱き方、これは引き続き1つの考察テーマとしたい。 余談だが、戦国時代において天下統一後のビジョンがあった大名は織田信長徳川家康だけだったと言われている。その点で言うと、偶然か必然かは分からないが、徳川家康に統一された日本は幸せだったと言える。


本書では鄧小平以外にも、毛沢東を筆頭に数々の現代中国の権力者等の姿が描かれている。その中でも、私に一番の魅力を感じさせたのは周恩来だ。彼の誠実さ、知性、包容力には尊敬を禁じ得ない。彼の姿は、太宗が貞観政要に著した君主の姿に忠実に沿う。リーダーとしてかくあらねばと思わされる次第である。 余談だが、現在中国の総理を務める李克強の姿も、周恩来のそれに重なる。また共に最高指導者ではなくNo2であることも似ている。太宗的リーダーをトップではなく、No2に置くというのが現代中国の組織体制の潮流なのかもしれない。

まとめ

今回は、鄧小平の半生を描いた現代中国の父 鄧小平を取り上げました。

次回はZBC#57で発表されたがん 4000年の歴史をご紹介します。

Zenport Book Club #56:その他の発表図書、関連図書

毛沢東の大飢饉  史上最も悲惨で破壊的な人災 1958?1962

毛沢東の大飢饉 史上最も悲惨で破壊的な人災 1958?1962

周恩来秘録〈上〉―党機密文書は語る (文春文庫)

周恩来秘録〈上〉―党機密文書は語る (文春文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

Zenport採用情報

株式会社Zenportでは、知的好奇心が旺盛な人を探しています。 弊社に興味がある方は以下のページからご応募ください。

www.wantedly.com