ZBC#55 [ビリオンダラー・スパイ] - 最高機密エージェント

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課題図書

今回は2017年8月5日に開催されたZenport Book Club #55の図書の中から最高機密エージェントをご紹介致します。

最高機密エージェント: CIAモスクワ諜報戦

最高機密エージェント: CIAモスクワ諜報戦

策謀、密告、裏切り。

東西で情報戦が繰り広げられた1980年代のモスクワの地で、自分の信念に従い、スパイの道を歩んだ者がいました。

その名はトルカチェフ、通称「ビリオンダラー・スパイ」と呼ばれたCIAのスパイです。

CIAに情報を提供し続けた彼の素顔とはどんなものだったのでしょうか?

そして彼を突き動かした信念とは何だったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 1980年代の冷戦時、ソ連の最高機密をアメリカCIAに提供し続けた男がいた。その名はアドルフ・トルカチェフ、通称「ビリオンダラー・スパイ」と呼ばれた人物である。

  • トルカチェフはソ連の軍用レーダーに関わる研究所のエンジニアであり、内部の情報にアクセスする権利を得ていた。彼はこれらの情報を、KGBに見つからないように細心の注意を払って、米国のCIAに提供し続けた。

  • トルカチェフがスパイになった理由、それは体制への反発だった。1974年のソルジェニーツィンの国外追放などが、彼の祖国に対する忠誠を損なわせた。これが契機となり、彼は自らスパイとなり、CIAと接触した。

  • アメリカに最高機密を提供し続けた彼であったが、1985年に終わりの時を迎える。CIAの担当者との会合をKGBに逮捕されてしまう。この逮捕を裏で導いた者もまた、CIA内部に潜り込んでいたスパイであった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

パンに満ちた世界における、人の行動原理とは何なのか。CIA職員が愛国心のもとに身の危険をおかす一方、トルカチェフは愛国心の枷を外し、自らの信念のために危険を冒した。行動原理についてはマズロー欲求5段階説が有名だが、私にはこの枠にとらわれない別の行動原理が、人間にはあるように思える。


誰のことも100%信用できない状況で情報戦を行うには、組織設計が重要になる。スパイが入り込んでもあぶり出す組織設計、スパイが入り込んでも崩壊を防ぐ組織設計。工業設計でのフェイルセーフの考えが、組織設計にも必要になるのだろう。スパイの有無という文脈ではないが、このフェイルセーフの考えは、一般的な組織設計にも当てはまる。その観点で言うと私は、アメリカ合衆国の統治組織は大変すぐれたものだと思う。素早い意思決定と、権力暴走の抑制の両者を、これほど高い水準で備えた統治組織は、歴史上他に存在しない。これを実現したワシントン等の足跡は、機を見て深く研究したい。

まとめ

今回は、CIAに貢献したソ連のスパイ、トルカチェフを描いた最高機密エージェントを取り上げました。

次回はZBC#56で発表された鄧小平をご紹介します。

Zenport Book Club #55:その他の発表図書、関連図書

キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

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死神の報復(上):レーガンとゴルバチョフの軍拡競争

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裏切られた革命 (岩波文庫)

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ZBC#54 [まだ夜が、暗闇だった頃] - 失われた夜の歴史

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課題図書

今回は2017年7月29日に開催されたZenport Book Club #54の図書の中から失われた夜の歴史をご紹介致します。

失われた夜の歴史

失われた夜の歴史

かつて産業革命が起こるまで、夜は暗闇が支配する世界でした。

そして夜は、光が支配する昼とは異なる文化を持つ場所でもありました。

同じ人間たちが形成する社会であるにもかかわらず、夜は、昼とは全く違う顔をもつ世界だったのです。

その夜とはどんな世界だったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 産業革命到来以前の西洋社会、その時代の夜は、独自の文化を持つ昼とは別の世界だった。社交性、労働、道徳的習慣などが、昼のそれとは大きく異なっていたのだ。

  • 夜は危険な場所であった。盗賊、追剥が跋扈し、外出や労働はほとんど困難であった。また夜は魔女や妖精が現れる時間だとも考えられていた。

  • 一方で、夜は解放の時でもあった。昼には出来ない秘密の会合や、放縦や陶酔が許される時間だった。

  • 当時、権力者にとって夜は自身の権威を高めるために必要なものだった。夜の闇が深く危険であるほど、昼を支配する神官や王族の権威は、より増すと考えられたからだ。

  • 夜が暗闇だった頃、睡眠の形式も現在と異なっていた。当時は、夜に一度起きてはまた寝る分割睡眠が常態だった。第1の眠りと第2の眠りの間に、彼らは祈り、朝ご飯の支度、また愛の情事などを行っていた。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

技術の発達が、人の時間の使い方を変えたという観点から見ると、夜の消失も一種の分業、革命と言って良いだろう。


夜の心理状態の関係性には大変興味がある。夜になると心理状態が危機回避の方に触れるのは自身の経験からも明らかだと思う。なぜ人間はそのように進化したのかについて、深く掘り下げたい。


夜という存在は、人間を含む生物全体の進化にも大きな影響を与えたことは、想像に難くない。夜がなければ、繁栄する種は異なったはずだ。そもそも、夜という存在がなければ、睡眠という行為もなかったかもしれない。この、生物と夜と睡眠の関係については、時間があればもう少し調べてみたい。

まとめ

今回は、暗闇だった頃の夜について綴った失われた夜の歴史を取り上げました。

次回はZBC#55で発表された最高機密エージェントをご紹介します。

Zenport Book Club #54:その他の発表図書、関連図書

暴力の人類史 上

暴力の人類史 上

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ZBC#53 [シュメールからシアトルまで] - 華麗なる交易

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課題図書

今回は2017年7月22日に開催されたZenport Book Club #53の図書の中から華麗なる交易をご紹介致します。

華麗なる交易 ― 貿易は世界をどう変えたか

華麗なる交易 ― 貿易は世界をどう変えたか

国富論を著した経済学の巨人、アダム・スミスは、次のような言葉を残したそうです。

「人間には、ある物を別の物と取り換え、引き換え、やりとりする方向が、本質的に備わっている。この喜ばしい傾向は、まさに人間の本性なのだ。」

即ち彼は、交易とは人間の本質的な行動であると説いているのです。

ではこの交易は、これまで人類の歴史に、どのような影響を及ぼしてきたのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 世界貿易の起源、それは紀元前3,000年頃のシュメール地方(現在のイラク周辺)にまで遡る。この土地で貿易が起こった理由、それは肥沃な三日月地帯と呼ばれたこの場所が、豊富な穀倉地帯だったからである。この貿易圏は後に、西はロンドン、東は長安まで拡大していった。しかしローマ帝国が滅び、情勢が不安定になると、域内の商業活動は一気に縮小した。

  • 貿易は続いて7世紀にインド洋周辺で大きく発展した。きっかけは、預言者ムハンマド、また彼が開いたイスラム教であった。商業の宗教であるイスラム教が糊の役目を果たす形で、インド洋周辺のいくつもの大規模な商業港が一体となって貿易圏を形成していったのだ。その影響は西はアンダルシアから東はフィリピンまで及んだ。また特筆すべき点として、この交易にヨーロッパ人は無関係であった。この状況は15世紀まで続く。即ち、彼らは実に800年程、世界の貿易の中心から締め出されていたのだ。

  • このイスラム教を中心とした貿易システムは1497年に崩壊する。きっかけはヴァスコ・ダ・ガマのインド到達であった。彼が喜望峰を周る通商航路を開拓したことで、ヨーロッパ人はインド洋周辺に進出し始めた。その後、ヨーロッパ人はインド洋周辺に交易体制を確立する。ここに、欧州による現代まで続く商業的支配が幕を開けたのである。

  • 交易の発達に関係する要素として、政治的安定性がある。人類史上、交易は帝国の繁栄に呼応して発展した。ローマ帝国イスラム帝国、元などの帝国が交易ルートの治安を整備することで、交易は発展してきた。

  • 交易発達への貢献としては、科学技術、家畜の存在も欠かせない。帆船・蒸気船の建設、羅針盤の発明、また貿易風の発見が商人の活動範囲を著しく拡大させた。またラクダの存在は、アジア-ヨーロッパ間の陸路での移動を可能にさせた。

  • 貿易の拡大はイデオロギーの対立も生み出した。すなわち自由貿易保護貿易の対立である。自由貿易の拡大によって、世界全体は豊かになってきた。しかしその過程では、必ず衰退産業が生まれ、多くの場合、衰退産業の従事者はときの為政者に圧力をかけ、保護貿易を叫んできた。これは現代に至るまで相変わらず続いている。即ち、シュメールからシアトルに至る貿易の長い旅を経てもなお、人類は進歩していないのである。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

現代における貿易の発展、これはパクス・アメリカーナによるところが多いだろう。アメリカが、かつての帝国と同じ情勢安定の役割を担うことにより、円滑な交易が実現できている。しかしながら現在、パクス・アメリカーナは衰退の兆しを見せている。これは1つの、交易の危機とも見てとれるだろう。


本書を読んでみてもそうだが、宗教、地理、気候、家畜、技術、資源等の複数のパラメータは相互に作用しあい、必然なる現在を作っていることが分かる。粗いモデル化にはなるが、複数のパラメータから時代を導く、謂わば時代方程式なるものが作れそうな気がする。出来次第、ブログにて披露したい。

まとめ

今回は、交易の歴史を綴った華麗なる交易を取り上げました。

次回はZBC#54で発表された失われた夜の歴史をご紹介します。

Zenport Book Club #53:その他の発表図書、関連図書

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

グローバリゼーション・パラドクス: 世界経済の未来を決める三つの道

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ZBC#52 [日本式外交のロールモデル] - 小村寿太郎

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課題図書

今回は2017年7月19日に開催されたZenport Book Club #52の図書の中から小村寿太郎をご紹介致します。

小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書)

小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書)

日本の外交力

戦後の日本しか知らない我々は、それに対し好意的な印象を持つことは難しいでしょう。

しかし、本書で取り上げられる小村寿太郎が、外交の一線で活躍した日清戦争からポーツマス条約締結に至るまでの期間は、日本の外交力は一流だったと言っても過言ではありません。

そんな彼の外交哲学とはどんなものだったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 小村寿太郎日向国飫肥藩の生まれ、非藩閥の出身であった。しかしながら、幼少からその能力を高く評価された彼は、大学南校進学(後の東京大学)、第一回文部省留学としてのハーバード大学への留学、外務省入省、果ては外務大臣就任という足跡を残していく。

  • 小村の外交官としての最大の成果は、日英同盟締結、並びにポーツマス条約の締結である。彼はその粘り強い精神力、類まれな勉強量に裏付けられた洞察力により、日本の国益に寄与する稀有の実績を多く残した。

  • 小村は、貪欲に国益を追求する外交官だった。彼は日本の国益を追求できる場面ではやや強引とも呼べる形で自説を押し通した。一方で彼は、国際協調を重視するバランス感に優れた外交官でもあった。それは日露緊張時の日英同盟の締結、日露戦争後に素早く結んだ日露協約などに垣間見ることができる。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

以前取り上げたニクソンの外交における強みが大局観だとすれば、小村の強みは、その粘り強さだと言って良い。ポーカーフェイスを貫き感情を出さす、相手が折れるまで粘る。シンプルなように見えて実は交渉に一番必要なことを、彼は外交の最前線で体現した。私はここに、日本人が目指すべき外交のロールモデルがあるように思える。


近代日本、少なくとも第二次日英同盟までの外交は一流であったと言っていい。パワーバランスを考慮し、自国の国益を貪欲に追求しつつも、引くところは引く。その動きは一流棋士棋譜のようでもある。

まとめ

今回は、近代日本外交の体現者、小村寿太郎の生涯を綴った小村寿太郎を取り上げました。

次回はZBC#53で発表された華麗なる交易をご紹介します。

Zenport Book Club #52:その他の発表図書、関連図書

新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)

新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)

桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)

桂太郎 - 外に帝国主義、内に立憲主義 (中公新書)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

ポーツマスの旗 (新潮文庫)

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ZBC#51 [アメリカの起源] - ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる

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課題図書

今回は2017年7月15日に開催されたZenport Book Club #51の図書の中からベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になるをご紹介致します。

ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる

ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる

ベンジャミン・フランクリン

アメリカ建国の父としてだけではなく、資本主義の父としても知られる彼は、これまで、実利的なアメリカ人の典型として捉えられていました。

しかし、本書の著者であるゴードン・S・ウッド教授は、彼は英国の形式的な階級制文化に憧れた人物であったと説きます。

そして、その憧れに裏切られたため、彼はアメリカ人になることを選んだのだと。

一体、彼がアメリカの象徴になるに至った背景とは、どのようなものだったのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • ベンジャミン・フランクリンはイギリス領北米植民地に生まれ、身分の低い印刷職人として人生をスタートさせた。本事業で身を立てた彼は、資産家として財を蓄えた後、イギリス内で紳士階級に登り詰めることに成功する。

  • フランクリンは人生の多くの時間を、ヨーロッパ、主にイギリス本土やフランスで過ごした。その期間、多くのヨーロッパの知識人と交流した。彼はその知性、人柄によって、ヨーロッパにおいて絶大な人気を得た。

  • 彼は当所、イギリスの階級制に憧れを抱いていた。また王政派でもあった。しかし、アメリカ独立紛争時に英国議会と意見の対立を見たことにより、彼はアメリカ支持に転向した。後に、彼はアメリカ独立を強く後押しすることとなる。

  • 彼は一般に、自由と機会の国アメリカの象徴として扱われることが多い。しかし彼の実像は、イギリス的な階級社会君主制に憧れながら、それに拒絶され、アメリカ人となることを選んだ人間だった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

先日、うめ先生という漫画家の方が、ストーリーは「AはBのためCをしたが、目標は達せず、かわりにDを手に入れる」という構成にすると読者の心をつかみやすい、と仰っていた。ベンジャミン・フランクリンの人生は、まさにこのストーリーに沿っていることがわかる。これが、彼が今でも広く支持される理由なのだろう。


建国のダイナミズム、そしてそれに携わるリーダーの生き様は、後世の人を惹きつけて止まない。アジアに限ってみても、大久保利通、鄧小平、リー・クアンユー等の歩みは、後世から振り返るだけでも興奮するものだ。また一方で思うことは、建国の際に、国益を最優先できるリーダーを抱けることは、国家として無上の幸いだということである。自分の私腹を肥やすリーダーがトップに上り詰め、国家が貧する事態は、歴史上に散見される。この「公を考えるリーダーの生み方」についての考察は、引き続き行っていきたい。

まとめ

今回は、アメリカ建国の父の素顔を著したベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になるを取り上げました。

次回はZBC#52で発表された小村寿太郎をご紹介します。

Zenport Book Club #51:その他の発表図書、関連図書

フランクリン自伝 (岩波文庫)

フランクリン自伝 (岩波文庫)

アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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ZBC#50 [卓越した大局観] - 戦略家ニクソン

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課題図書

今回は2017年7月12日に開催されたZenport Book Club #50の図書の中から戦略家ニクソンをご紹介致します。

戦略家ニクソン―政治家の人間的考察 (中公新書)

戦略家ニクソン―政治家の人間的考察 (中公新書)

第37代米国大統領リチャード・ニクソン

彼に対する後世の評価は、ウォーター・ゲート事件によって、決して高いとは言えません。

しかしながら彼は在任中に、世界史に名を刻む数々の外交成果を残しました。

彼が残した成果とは何なのでしょうか?

また、彼の外交姿勢の基盤となったものは何のでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 第37代米国大統領のリチャード・ニクソンは、外交において多大なる功績を残した。米ソのデタント推進、ベトナム戦争終結は、彼の数ある功績のうちの1つだ。しかしながら、彼の最大の功績は、米中国交正常化の道を開いたことである。

  • ニクソンは米国経済の発展、ソ連牽制の意味合いから、米中間での国交樹立が必須だと考えていた。しかしながら、歴史的背景により、米国は表立っては中国に接近出来ない状況であった。そんな状況の中、彼は極秘チームを組織し周到な準備を行い、パキスタン経由で中国との交渉を取り付けることに成功した。

  • ニクソンの外交は大局観に優れていた。彼は常に外交を二国間では捉えず、国際社会を盤面として捉えていた。彼のこの外交姿勢は、英国元首相のディズレイリ、ドイツ元首相のアデナウアー、そして彼に大統領補佐官として仕えたキッシンジャーに影響を受けたものだった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

ニクソンの対中接近時の情報管理は徹底していた。その内実を知っていたの政府内でも彼とキッシンジャーだけ。同盟国であった日本にも事前通知は一切行われなかった。敵を欺くには先ずは味方から。沈黙の大切さを思い知らされる。


ニクソンの外交、それはリデルハートの間接的アプローチの原則に沿っている。事前の周到な準備、決して正面からは向かわず空白地帯から攻める姿勢。然るべき理論を忠実に実効するその能力は、賞賛せざるを得ない。

まとめ

今回は、過小評価された英雄を説いた戦略家ニクソンを取り上げました。

次回はZBC#51で発表されたベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になるをご紹介します。

Zenport Book Club #50:その他の発表図書、関連図書

指導者とは (文春学藝ライブラリー)

指導者とは (文春学藝ライブラリー)

小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書)

小村寿太郎 - 近代日本外交の体現者 (中公新書)

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ZBC#49 [間接的アプローチ] - リデルハート戦略論

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課題図書

今回は2017年7月8日に開催されたZenport Book Club #49の図書の中からリデルハート戦略論をご紹介致します。

リデルハート戦略論 間接的アプローチ 上

リデルハート戦略論 間接的アプローチ 上

アレクサンダー大王の時代からヒトラーの没落まで、期間にして凡そ25世紀、実に280件近くにも上る戦争を読み解いたリデルハートは、ある戦略の本質を突き止めます。

即ち、戦略には間接的アプローチこそが求められると。

またその理由を、戦略と大戦略の関係に見出します。

彼の説く、間接的アプローチ、そして大戦略とは一体どのようなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 古代ギリシャ時代から、第二次世界大戦に至るまでに行われた、計280件にも及ぶ戦闘。そこから導かれた帰結は、軍事戦略においては間接的アプローチが求められるというものだ。ここで言う間接的アプローチとは、正面衝突を避け、間接的に相手を無力化させる戦略の事を指す。

  • 軍事戦略とは、大戦略(国家戦略)の下に位置づけられるべきである。大戦略とは、国家をどう発展させるかという、主に政治家に帰属するものである。その前提を忘れ、軍事戦略が暴走すると、勝利しても国家の土壌が毀損され、発展が妨げられる事態になりかねない。間接的アプローチが求められる理由もそこにある。

  • 戦略の本質を記した古典として、クラウゼヴィッツの戦争論がある。これは確かにモルトケ等の手によって、プロイセン、並びにドイツの隆盛を促した。しかしこの戦争論には大戦略の観点が欠落していた。これが第一次世界大戦第二次世界大戦後の混乱を引き起こした。

  • 間接的アプローチの観点に立つ場合、以下の8つ側面に注意する必要がある。

      1.目的を手段に適合させる
      2.常に目的を銘記する
      3.最小予備線を選ぶ
      4.最小抵抗線を利用する
      5.代替目標を併せ持った作戦線をとる
      6.状況に適合するように、計画と配備の柔軟性を確保する
      7.敵が警戒している間は、我が兵力を打撃に投入しない
      8.一度失敗した後に、同じような方向に沿って再び攻撃を行わない
    

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

リデルハートの戦略は、孫氏のそれと驚くほど似通っている。リデルハートは自説を導いた後に孫氏を知ったようなので、これが時を超えた普遍の理論だということが分かる。時は流れても、主体が人間であるかぎり、戦略の本質は変わらないのだろう。


私たちは得てして、戦いとはゴングと共に始まるものだと思っている。しかし実のところは、戦いとはゴングが鳴らずに始まり、そればかりか、ゴングが鳴らぬ間に、既に終わっているものなのだろう。


マハン海上権力史論や、米中もし戦わばを読んだときにも思ったが、昨今の中国の動きはこの間接的アプローチに忠実に沿っている。その意図の是非はともかく、中国首脳部の優秀さは認めざるを得ない。

まとめ

今回は、間接アプローチの重要性を説いたリデルハート戦略論を取り上げました。

次回はZBC#50で発表された戦略家ニクソンをご紹介します。

Zenport Book Club #49:その他の発表図書、関連図書

新訂 孫子 (岩波文庫)

新訂 孫子 (岩波文庫)

戦争論〈上〉 (中公文庫)

戦争論〈上〉 (中公文庫)

マハン海上権力史論 (新装版)

マハン海上権力史論 (新装版)

知恵の七柱 (1) (東洋文庫 (152))

知恵の七柱 (1) (東洋文庫 (152))

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