ZBC#75 [生命の再定義] - CRISPER

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課題図書

今回は2017年11月18日に開催されたZenport Book Club #75の図書の中からCRISPERをご紹介致します。

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

CRISPR(クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか

フランスの画家ポール・ゴーギャンが絵画に込めたこの問いは、今でも人類の眼前に鎮座しています。

近年、この問いに対し1つの示唆を示す技術が生まれました。

その名はCRISPER-Cas9、通称CRISPERと呼ばれるゲノム編集技術です。

この技術は私たちの世界をどう変えようとしているのか。

またこの技術誕生の裏側にはどんなドラマがあったのでしょうか。

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • CRISPER-Cas9とは革新的な遺伝子編集技術である。これはUCバークレーのダウドナ教授による、RNAの研究中に見つかった。DNAには数十文字の繰り返し配列があり、これはCRISPER配列と呼ぶ。また、このCRISPER配列の近くにはCasという遺伝子グループが存在し、これが外界から侵入したウイルスを破壊する。その中でもCas9と呼ばれるたんぱく質が最も重要な役割を担い、これはガイドRNAの指示に従い、ウイルスのDNAを切断する。CRISPER-Cas9とは、このガイドRNA+Cas9の能力を、自身の遺伝子の編集に応用した技術である。

  • CRISPER-Cas9(以降:CRISPER)が革新的な理由は、その簡易性かつ低価格性にある。従来のゲノム編集技術であるZFN, TALENは利用に習熟が必要であり、かつ利用費も高額であった。しかしCRISPERは高校生でも簡単に扱えるほど簡単な技術であり、利用料も格段に安い。

  • CRISPERの応用先としては以下の分野が考えられる。1つは動植物の改変である。角の無い牛や、干ばつ耐性のあるとうもろこしなど、その応用先は枚挙に暇がない。もう1つは病気の治療だ。これについては体細胞から治癒するか、生殖細胞から治癒するかという問いがつきまとう。後者の場合のほうが、根本から治癒できるため効果が高いが、一方で遺伝情報を直接編集するため、倫理的な問題がつきまとう。

  • 言わずもがな、CRISPERは負の側面も孕んでいる。ヒトラーが進めた優生学に結びつく可能性もある。かつて原子爆弾を生み出したオッペンハイマーは原爆投下後、「科学者は罪を知った」という言葉を残したと言われている。その文脈で述べると、科学者、いや人類は、今また新しい罪を背負おうとしているのかもしれない。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

ゲノム編集は、デザイナーベイビーの是非の議論と切っても切り離せない。私はデザイナーベイビーの誕生には賛成である。優れた性質を持って生まれたい、そんな子供を産みたいという願望は人間の根本的な欲求であり、認められるべきだとかんがえられるだ。


人工知能の発達によって人類の存在意義が問われている時代に、人類の再定義を行う技術が現れたことは大変興味深い。私たち人間は今、何をすべきか、何が出来るかを問われているのだろう。


本書には、ダウドナ教授、自身の正統性を世論に示す意図もあるように思える。実は、CRISPERの特許については、ダウドナ教授とMITのチャン教授の間で争いが行わている。現在、後者のチャン教授に分がある状況だ。このような背景があったからこそ、本書を出版し世論を味方につけようとしたのではないかと考えられる。個人的には、先に発見したダウドナ教授等を支持したい。

まとめ

今回は、ゲノム編集の革新的な技術について説いたCRISPERを取り上げました。

次回はZBC#76で発表された大暴落1929をご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

デザイナー・ベビー ゲノム編集によって迫られる選択

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ゲノムが語る23の物語

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生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)

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ZBC#74 [貧者と金融] - 最底辺のポートフォリオ

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課題図書

今回は2017年11月11日に開催されたZenport Book Club #74の図書の中から最底辺のポートフォリオをご紹介致します。

最底辺のポートフォリオ

最底辺のポートフォリオ

  • 作者: ジョナサン・モーダック,スチュアート・ラザフォード,ダリル・コリンズ,オーランダ・ラトフェン,野上裕生,大川修二
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2011/12/23
  • メディア: 単行本
  • 購入: 2人 クリック: 18回
  • この商品を含むブログ (9件) を見る

金融とは富裕層だけのものなのか?

このような問いに対するアンチテーゼとして書かれたのが本著です。

ニューヨーク大学低所得者への質の高い金融サービスの拡大について研究するジョナサン・モーダック教授等は、一日2ドル以下でクラス貧困層に焦点を当て、彼らの資金調達や貯蓄に目を向けることで、生存戦略を明らかにします。

そこから明らかになった、彼らの日々の資金繰りの実態、また然るべき貧者への金融サービスとはどんなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • バングラデシュ・インド・南アフリカの約300世帯を対象に、資金調達や貯蓄を中心にして1年間行った調査の結果から、貧困層の問題は単に所得が低いだけではないことが分かった。所得が不規則であること、所得の予測が不可能であること、また資金調達の手段がないことが、貧困層の資金繰りをより深刻にしている。

  • この状況に対して貧困層は様々な手法で対応している。1つは友人、親族でネットワークを構築し、だれかがリスクに直面した際は周りの人間が助け合うというものだ。これは、利子のかからない共済保険をイメージすればわかりやすい。

  • 貧困層へのファイナンス機関として、昨今グラミン銀行に代表されるマイクロファイナンス機関が台頭してきた。しかしこれらは、硬直的であり即応性が無いため、貧困層のニーズを満たしてはいなかった。

  • 今後の貧困層向けの金融サービスには、「信頼性」「利便性」「柔軟性」「構造」の4点が求められる。これらをきっかけとして金融サービスは、貧困層が日々の金銭管理を厳格に行い、長期的な貯蓄を行い、また投資のためにお金を借りられる環境を得られるようサポートすべきである。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

貧困層への金融サービスには、もう1点「教育」が必要だろう。投資という概念の教育だ。ミクロ経済というのは、消費と投資のバランスをとり、持続可能な系を作ることだとみなせる。しかし、投資の概念の習得は簡単ではなく、またそれが貧困国が貧困から抜け出せない理由でもある。よって、金融サービス付与の際に、教育も同時に施すことが必要となろう。ただ恥ずかしながら、どのような教育が必要かについての考察までは考えが及んでいない。これは今後のissueの1つだ。

まとめ

今回は、貧困層の資本政策について説いた最底辺のポートフォリオを取り上げました。

次回はZBC#75で発表されたCRISPRをご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える

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善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学

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国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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10万年の世界経済史 上

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ZBC#73 [琴線の揺らし方] - ベストセラーコード

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課題図書

今回は2017年11月4日に開催されたZenport Book Club #73の図書の中からベストセラーコードをご紹介致します。

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

千夜一夜物語からダ・ヴィンチ・コードに至るまで、人類は数千年の歴史の中で多くのベストセラーを産んできました。

これらベストセラーには、何か共通する特徴があるのか。それが本書のテーマです。

この問いに対して、英文学の研究者である著者等はある結論を導きます。

その結論とはどんなものだったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • ニューヨーク・タイムズの「ベストセラー」500冊と、あまり売れていない4,500冊、計5,000冊の小説を機械学習にかけた結果、ベストセラーになる小説の持つ特徴が分かってきた。

  • まず違いが顕著なのがトピックについてである。ヒットした作品は「家庭生活」「弁護士と法律」「母親としての役割」のように、現実的かつ少数のトピックに集中して書かれている。一方ヒットしなかった小説は、トピックが分散しており、また「宇宙での戦い」「財政会における駆け引き」などの非日常のトピックを扱う傾向がある。

  • 読者の感情の起伏の付け方についてもセオリーがある。フィフティ・シェイズ・オブ・グレイやダ・ヴィンチ・コードなどのベストセラーは、一定の周期で、読者の感情を上下に揺さぶっている。一方ヒットしなかった小説では、常に読者を幸福な状態に置くか、もしくは陰鬱な状態に置く。

  • 文体にも違いが現れる。ベストセラーはcan’tやI’dなどの略称を多用する一方、感嘆符(!)は使わない。また、sayやaskなどのシンプルな表現を好む。一方ヒットしなかった小説では、shoutやremarkなどの難しい表現で飾り立てる傾向が見られる。

  • ベストセラーでは、主人公の行動に関わる動詞の登場頻度が高いことも特徴だ。WantやNeedなどの要求を示す表現や、do, reachなどの主体性を持つ動詞が多い。一方ヒットしなかった小説では、halt, drop, waitなどの消極的な動詞の頻度が高い。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本書を読んで想起されたことは、型と個性だ。元サッカー日本代表監督である岡田監督は、サッカーでは若い間に型を覚え、その上に個性を載せるべきだと述べている。これは文章の書き方、また話し方についても同じことが言えるだろう。ストーリーには、万人が心地よいと思う型がある。まずそれを身につけ、その上に個性を載せて差別化する。今一度自分の状況を見つめ、型と個性の習得に取り組みたい。

まとめ

今回は、ベストセラーの書き方について説いたベストセラーコードを取り上げました。

次回はZBC#74で発表された最底辺のポートフォリオをご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ストーリーの解剖学ーハリウット?No.1スクリプトドクターの脚本講座

ストーリーの解剖学ーハリウット?No.1スクリプトドクターの脚本講座

  • 作者: シ?ョン・トゥルーヒ?ー,John Truby,吉田俊太郎
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る

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ZBC#72 [国造りの要諦] - リー・クアンユー回顧録

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課題図書

今回は2017年10月28日に開催されたZenport Book Club #72の図書の中からリー・クアンユー回顧録をご紹介致します。

リー・クアンユー

シンガポールの国父である彼は、わずか一代で発展途上国だったシンガポールを世界有数の先進国に押し上げた立志伝中の人物です。

彼が行った国造りは、自身の過酷な体験から得られた信念に忠実に基づいて行われたものでした。

そんな彼の信念とは、一体どんなものだったのでしょうか。またそれが培われるキッカケは何だったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • リー・クアンユーの政治哲学の基礎は日本軍の占領下に得たものである。第二次世界大戦時の、日本軍による規律と暴力による統治下では、暴動や混乱がほとんど起こらなかった。この経験から彼は、規律と罰こそが政治には必要であると学んだ。その考えは、シンガポールの法律、統治体系に色濃く影響を与えている。

  • 彼はシンガポール独立前後で、2つの大きな戦いに身を投じる。1つは共産主義者との戦いである。1957年のマレーシア独立時、リー・クアンユーはマラヤ共産党と協力して人民行動党(PAP)を結党する。しかしPAPが政権を取ると、両者の主導権争いが勃発。熾烈な抗争の末に、リーは共産党グループを抑えこむことに成功する。

  • もう1つはマレー至上主義者との戦いである。マレーシア連邦時代、与党である統一マレー国民組織(UMNO)の過度なマレー偏重に対し、華人社会であったシンガポール自治州は反旗を示す。結果マレーシアに追い出される形で、1965年にシンガポールは独立することになる。

  • 独立後、彼が最も力を入れたのは教育であった。資源も無い小国であるシンガポールが発展するには人材こそが頼りであると考えた彼は、持参財教育に多大な投資を行う。その功績は、英語、中国語など複数語を公用語とする多言語教育、シンガポール国立大学を頂点としたエリート教育などの形で体現されている。

  • 彼はシンガポールをアジアのハブとするべく、様々なインフラ構築に取り組んだ。1つは金融センターの設立である。彼はシンガポールをアジアに金融センターにすべく、シティに習う形で金融インフラを構築した。結果、シンガポールは世界4位の金融センターの地位を得るに至る。また彼は物流ハブの構築にも取り組んだ。現在アジアの空の玄関港となっているチャンギ国際空港は、彼が多額の投資を行ったことに起因する。

    参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

リーは信念の人である。彼は西洋諸国からの非難にも屈せず、優れた統治には厳格な統制が必要であるという姿勢を貫いた。何が正解かわからない状況で、彼は信念に従って行動を続けた。その姿勢には尊敬を禁じ得ない。


リーような集団を繁栄させられるリーダーが生まれる土壌は、どうやって構築されるのか。これは「国家はなぜ衰退するのか」を読んで以来の私のイシューの1つである。この問いに対し、私は儒教プロテスタンティズム等の思想によって醸造されるという解を用意したい。勤勉、奉仕、投資などの概念を、生物は自然状態では持ちえない。そのためには思想が必要であると私は思う。その思想として、優れたリーダーの発生に最も貢献してきたのが、儒教またはプロテスタンティズムだというのが私の見解である。

まとめ

今回は、リー・クアンユーの生涯について説いたリー・クアンユー回顧録を取り上げました。

次回はZBC#73で発表されたベストセラーコードをご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

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現代中国の父 トウ小平(上)

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国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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ZBC#71 [民主主義の3条件] - 政治の起源

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課題図書

今回は2017年10月25日に開催されたZenport Book Club #71の図書の中から政治の起源をご紹介致します。

著者

フランシス・フクヤマ:1952年アメリカ・シカゴ生まれ。スタンフォード大学 シニア・フェロー。ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。


かのチャーチルは民主主義について、以下の有名な言葉を残しています。

実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。ただし、これまでに試みられてきた民主主義以外の全ての政治形態を除けばだが。

私たちが当たり前のものとして見做している民主主義。これは完全な政治形態と呼ぶことは出来ませんが、民衆への富、自由、平等の還流という点において、他の政治形態より優れいていることは疑いようがありません。

本書の著者であるフランシス・フクヤマは、人類がこの民主主義を獲得するまでの道のり、並びに民主主義が実現するための三条件を明らかにします。

彼がたどり着いた民主主義の核心とはどんなものなのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 近代的民主主義を機能させるには次の3条件が必要である。それは、権力を統合し行使できる国家、法の支配、説明責任を負う政府の3つである。

  • 人類史上最初の国家は紀元前221年の中国大陸に生まれた。始皇帝が統治した秦である。それまでの人類は、親族集団または部族集団という集合体を作るにとどまっていたが、秦は初めて血縁ではなく能力に依拠した官僚制を整備した。ここに人類史上初めて、指揮系統と強制力を持つ主権国家という集団が生まれた。しかし彼らは、法の支配、説明責任を負う政府は導入しなかった。その後現在に至るまで、中国大陸を統一した国家でこの2つを満たすモノは生まれていない。

  • 第2の条件である法の支配は、宗教がきっかけで生まれた。そのきっかけは中世の、神聖ローマ皇帝ローマ教皇の間の叙任権闘争だった。この争いをきっかけとして、権威ある者も法の下で市民と同じように支配されるという考えが生まれた。また英国では、大陸とは別軸で法の支配の概念が生まれた。この根底にはコモン・ローの考え方があった。判決の蓄積により法そのものが進化する特質を持ったコモン・ローと、全国に広がる裁判所の存在が、イギリスに法の支配の意識を植え付けたのだ。

  • 第3の条件である政府の説明責任は、議会制の発達、啓蒙思想による社会契約の概念の発達によって普及した。その中心となったのはイギリスである。イギリスでは、貴族・地主階級・中産階級という有力な市民が、政府(国王)に対して反論を述べるという文化があったため、政府の説明責任が自然と生まれた。これが法の支配と結びつき、名誉革命、その後の議会政治の実現(民主化)につながった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

人間(生物)の集団を、何の知見も無い状態から作ったとして、現代のような国家と法が統治する状態が自然に生まれることはほぼ無い。猿山のような力ある者が支配する集団になることがほとんどだろう。その文脈で言うと、民主主義とは局所的な平衡状態といえる。即ち人間の社会とは、負のエントロピーを食すことで維持されている系と言える。その姿はいかにも人間(生物)らしい。


説明責任を負う政府の存在によって民主主義が発達したという見解は秀逸だ。これは即ちバランスが必要だということを示している。政府が強すぎでは独裁に陥る一方、民衆が強すぎるとポピュリズムになる。最適な状態には常にバランスが求められる。ただ問題はその振り子をどう振るかだ。この点について、汎用的な解を人類はまだ手にしていないように思える。

まとめ

今回は、近代的民主主義を実現する条件について説いた政治の起源を取り上げました。

次回はZBC#72で発表されたリー・クアンユー回顧録をご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

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リヴァイアサン〈1〉 (岩波文庫)

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完訳 統治二論 (岩波文庫)

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サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

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中国史(上) (岩波文庫)

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ZBC#70 [ダーウィンの先] - ヒトは病気とともに進化した

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課題図書

今回は2017年10月21日に開催されたZenport Book Club #70の図書の中からヒトは病気とともに進化したをご紹介致します。

著者

太田 博樹:北里大学医学部准教授。東京大学大学院理学系研究科博士課程終了。

長谷川 眞理子 :総合研究大学院大学先導科学研究所教授。東京大学大学院理学系研究科博士課程終了。


私たち人類の歴史のそばにはいつも、病気の存在がありました。

統合失調症結核、ガン。

これらの存在を前にすると、私たちは皆一様に次のような疑問を感じるのではないでしょうか?

なぜ、病気はあるのか?

この問いに対し、本書の著者等は次の答を示します。

すなわち、生物学から見れば健康も病気もそれぞれ1つの状態であり、良し悪しはないと。

ではこの病気という状態はどのような経緯によって起こるのでしょうか?

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 病気がある理由の1つは進化的時間と社会的時間のミスマッチだ。ヒトの体が社会の変化のスピードに適応できないため、そのズレが病気となって発露している。

  • 一方、病気は適応だけで論じることは出来ない。昨今の研究から、一部の遺伝子が疾患と関連があることがわかってきた。遺伝要因がかかる疾患は,単一遺伝子が非常に大きな効果を持つメンデル遺伝性疾患と、多くの遺伝子が少しずつ効果を持つ多因子遺伝性疾患に分類できる.

  • 2010年前後から、ゲノムワイド関連分析(GWAS)というゲノム情報と疾患の関連を統計的に調べる手法が容易に行えるようになった。GWASの注目すべき成果として、ヒトは肥満しにくく方向に進化するに至った事実の解明がある。これはFTOタンパク質の発見によって明らかになった。

  • 精神疾患である統合失調症は他の病気とは一線を画する。多くの病は、年齢、地域によって発症率が異なるが、統合失調症は弱年齢、地域、また時代に関わらずほぼ1%の確立で発症する。この統合失調症の特徴は、平衡淘汰仮説によって説明できる。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

病気とは人類が定義した境界線の向こう側でしかない。昨今、人間の様々な特徴に名前を付け、病気とみなし、それを過剰に保護する動きが時々見られるが、私はこの兆候には反対だ。これらの行為は、疾患1つ無い健康状態こそが自然状態であり、それ以外は全て異常であるという考えを助長すると思う。何か問題がある状態でも、それを自然状態として受け入れる。互いに助けが必要な場合は、周囲の人たちで支え合う。そのような状態こそが、本来あるべき姿ではないだろうか。

まとめ

今回は、病気の歴史について説いたヒトは病気とともに進化したを取り上げました。

次回はZBC#71で発表された政治の起源をご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

種の起原〈上〉 (岩波文庫)

病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解

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がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

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感染源 防御不能のパンデミックを追う

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ZBC#69 [軍事と民間の交差点] - ペンタゴンの頭脳

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課題図書

今回は2017年10月18日に開催されたZenport Book Club #69の図書の中からペンタゴンの頭脳をご紹介致します。

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

著者

アニー・ジェイコブセン:調査報道ジャーナリスト。ロサンゼルス・タイムズ・マガジンの編集に携わるほか、多くの雑誌に寄稿。著書に「エリア51」などがある。


インターネット、GPS,ドローン。

これらの革新的な技術が、実は元々軍事技術として生まれ、後に民間に転用されたことを知っている方も少ないないでしょう。

しかしこれらが、どこで生まれたかを知る人は多くないかもしれません。

その名はDARPA

ペンタゴンの研究機関として存在するこの組織の実態は、未だ謎に包まれています。

今回はそんなDARPAの実態と、彼らが現在注力している分野についてご紹介致します。

要旨

  • DARPA(その前進であるARPA)は米国国防総省の機関として1958年に生まれた。その組織形態は普通の研究機関とは異なる。DARPAには長官の下に150名程度のプロジェクトマネージャーが在籍し、彼らが企業や大学で独立して研究を行っている。DARPAの研究機関というものは存在しない。

  • DARPAが誕生したきっかけはスプートニク・ショックである。当時、ソ連の宇宙技術の発展、並びにその技術の軍事への転用に危機感を覚えた米国は、アイゼンハワー大統領のもと、最先端科学技術を米国軍に転用することを目的としてDARPAを設立した。

  • DARPAで生まれた軍事技術はその後民間に転用され、社会を大きく変容させてきた。インターネット(ARPANET)、GPS、ドローン、これら革新的な技術は全てDARPAが開発し、その後民間に広がったものである。

  • 現在DARPAが力を入れている分野は、ロボット、並びに人間と機会を融合するニューロテクノロジーである。戦場で戦う戦争ロボットの開発は言わずもがな、人間の脳にチップを入れて操作する脳インプラント技術などの開発も進められている。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本著を読み、私は緊張/弛緩と革新の関係性について考えが及んだ。DARPAでこれだけの革新的な技術が生まれたきたのは、米国が戦争という常に緊張を伴う環境に置かれていたことが大きい。その文脈で言うと、緊張が革新を促したと言える。一方で弛緩が革新的なものごとを生み出す事例も歴史上散見される。企業内のサイドプロジェクトとして生まれ、後に本流になったサービスなどがそれにあたる。革新的なモノゴトを生み出す場合、緊張/弛緩はどのように使い分ければ良いのか。ここは一概に答えは出せず、場合分けが必要となるだろう。機を見て掘り下げてみたい。


ニューロンテクノロジーは大変興味深い技術だ。しかし、そもそも脳、特に意識の仕組みというものは未だに解明されてないはずだ。その状況で、どうやって人間を制御しようとしているのか。どの部位にどれほどの電位をかければ、どのような行動を起こすというメカニズムが解明されているのだろうか。この辺については時間をみつけて研究してみたい。

まとめ

今回は、秘密に覆われた研究機関DARPAについて説いたペンタゴンの頭脳を取り上げました。

次回はZBC#70で発表されたヒトは病気とともに進化したをご紹介します。

その他の発表図書、関連図書

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで

帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦 略

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紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

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