ZBC#65 [心の配線図] - コネクトーム

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課題図書

今回は2017年9月23日に開催されたZenport Book Club #65の図書の中からコネクトームをご紹介致します。

コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

わたしの心はなぜ他人と違うか。

人類が生まれながらに背負ったこの問いに対し、本書の著者であるスン教授はある答えを示します。

それはコネクトーム

すなわち、私を私たらしめているのはコネクトームだと、彼は説いているのです。

ではこのコネクトームとは具体的にどう私たちの心を形作っているのでしょうか?

そして、私たち人類はその深淵にどれほど近づいているのでしょうか?

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • コネクトームとは脳の全神経細胞ネットワーク地図のことである。私たちの脳には1,000億のニューロンが存在し、それが各々100~1,000個のニューロンと紐付いている。私たちの意識や心を形作るのは、このコネクトームの様相であると考えられている。

  • これまで人類はヒトのコネクトームの解明に取り組んできた。しかし残念ながら、まだその姿は明らかになっていない。コネクトームの構造は複雑すぎるため、現代の技術を持ってしても解読できない。しかし今世紀末には、ヒトコネクトームは解読できると考えられている。

  • コネクトームは日々変化している。その変化の方法は4つのRで表現できる。再荷重(Reweighting)、再接続(Reconnecting)、再配線(Rewiring)、再生(Regenerating)である。これはコネクトームが経験により変改することを意味している。すなわち私とは、遺伝だけではなく、経験の産物でもあるのだ。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

世界が70億のヒトから構成され、そのネットワークで出来ていることを考えると、世界と脳は似ているは言えないか。そう思うと、ヒトの意識を探るのは、世界の構造を探ることに似ている。


人はなぜあるのか。私たちとは何なのか。デカルトパスカルという哲学の巨人が思索した問いは、生物学の手によって解明されつつある。人類がその時代の認識で区別した分類を、科学と技術の進歩が溶かす。この人類の営みに私は強く惹かれるし、私もその営みの一部になりたいと強く願う。日々取り組んでいることが、その一助に成るはずだと信じ、これからも日々精進したい。

まとめ

今回は、心を司る脳神経ネットワークについて説いたコネクトームを取り上げました。

次回はZBC#66で発表されたあなたの知らない脳をご紹介します。

Zenport Book Club #65:その他の発表図書、関連図書

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識と脳――思考はいかにコード化されるか

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意識をめぐる冒険

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ZBC#64 [人間賛歌] - ルネサンスの歴史

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課題図書

今回は2017年9月20日に開催されたZenport Book Club #64の図書の中からルネサンスの歴史をご紹介致します。

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

ルネサンス

14世紀にイタリアで起こったこの人文主義への回帰は、多くの変化を西欧にもたらしました。

芸術観の変化、マキャベリズムの誕生、そして宗教の再定義。

このルネサンスはなぜ起こり、そしてなぜ衰退したのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • ルネサンスとは、キリスト教的社会から開放されて、古代ギリシャ、ローマのような自分主義を復活させようとする動きである。これは14世紀のイタリアで起こり、西欧各国へと広がっていた。

  • ルネサンスの繁栄を後押ししたのはメディチ家であった。フィレンチェにて銀行業を営み、莫大な資産を手に入れたこの一族は、ルネサンス文化の庇護者となった。

  • ルネサンス期を彩ったのは、多くの芸術会の巨人である。ルネサンス初期にはダンテ、ボッカチオ、ペトラルカなどの詩人が活躍した。またルネサンス後期には、レオナルド・ダ・ビンチ、ラファエロミケランジェロなどの画家、彫刻家が多くの著名な作品を著した。

  • ルネサンス末期に起きた事象として外せないのが宗教改革である。これはメディチ家出身のレオ10世が教皇庁の資産を浪費し、補填のために免罪符を発行したことに端を発する。これに反発したルターが聖書への復帰を促し、カトリックからプロテスタントが分離することになる。

  • ルネサンス衰退のきっかけはコロンブスによる新大陸発見であった。これにより、地中海に向けられていた意識が、新世界へと向けられるようになった。またこの動きはスペイン、ポルトガル、オランダなどの国によって行われた。これをきっかけとして、イタリアはヨーロッパ史の主役から転落することになる。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

ルネサンス宗教改革の起こりが、言葉の取得(ラテン語から国民語へ)と関連があるのは大変興味深い。人は言葉を手に入れ、集団内で考えを共有する術を得た。それによって権威から解放された。人が本来あるべき姿への遷移。それを後押しする技術の発達。人類史はこの言葉に集約できる。


世界の流れを見る上で、地政学の観点は欠かせない。ルネサンスがイタリアで起こったのは、中東のイスラム社会と近く、彼らとの貿易で栄えたからであるし、また植民地時代に遅れをとったのは、外洋に出づらかったからだ。人類史、時代を左右する事項として地政学の観点は欠かすことは出来ない。

まとめ

今回は、ルネサンスのあらましについて説いたルネサンスの歴史を取り上げました。

次回はZBC#65で発表されたコネクトームをご紹介します。

Zenport Book Club #64:その他の発表図書、関連図書

イタリア・ルネサンスの文化 (上) (中公文庫)

イタリア・ルネサンスの文化 (上) (中公文庫)

帳簿の世界史

帳簿の世界史

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

1493――世界を変えた大陸間の「交換」

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

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ZBC#63 [マルサス後の世界] - 10万年の世界経済史

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課題図書

今回は2017年9月16日に開催されたZenport Book Club #63の図書の中から10万年の世界経済史をご紹介致します。

10万年の世界経済史 上

10万年の世界経済史 上

著者:グレゴリー・クラーク
カリフォルニア大学デービス校経済学部教授。ハーバード大学PhD。英国とインドの経済史、長期にわたる経済成長を研究している。


今の世界はなぜ、西洋社会を頂点とした格差社会となっているのか。

著者であるクラーク教授はそのきっかけを1800年代の産業革命に見出します。

すなわち、産業革命をきっかけに一部の国がマルサスの罠を抜け出し、大いなる分岐が生まれたのだと。

その過程とはどのようなものだったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 1800年代以前、世界はマルサスの罠の下にあった。これは、技術革新によって生産性が増加すると短期的に所得が増加するが、後に人口が増加することで生産性上昇が吸収される現象である。人類は実に石器時代から1800年代に至るまで、このマルサス的社会に生きていた。

  • 世界がマルサスの罠を逃れた理由は産業革命である。これによって、人類は人口増加と関係なく個人の労働生産性を上昇させることに成功する。この事象をきっかけに、世界は富める国と貧しい国という大いなる分岐に直面した。

  • 産業革命が中国、インド、日本などの他の国ではなく、イギリス等の西洋社会で初めて起こったのか。その理由は識字率の高い勤勉な中産階級の割合が高かったからである。

  • 経済発展とは、結局個人の生産性に依存する。そのため、貧困国に対する、教育に結びつかない只の援助は無意味である。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

世界の帰結を考察するために、一人あたりの生産性に目を向けたのは面白い。経済発展をモデル化し、いくつのパラメータから導出される一人あたり生産性という値が閾値を超えると、経済発展度合いは次の極地に移動するということだろう。頭の中でもイメージし易い。ただ問題は、生産性を導出するパラメータが何かということだ。


本書の主張には幾分断定が見られる。自説に都合の良いリソースのみを引用しているきらいがある。(例えば産業革命以前の日本は、石器時代と同じ経済水準であったなど)。反証可能性が高い仮説であるだけに、本主張は話半分で聞いた方が良いだろう。

まとめ

今回は、経済発展の歴史について説いた10万年の世界経済史を取り上げました。

次回はZBC#64で発表されたルネサンスの歴史をご紹介します。

Zenport Book Club #63:その他の発表図書、関連図書

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成―

大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成―

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

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ZBC#62 [6万年前のロマンス] - ネアンデルタール人は私たちと交配した

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課題図書

今回は2017年9月13日に開催されたZenport Book Club #62の図書の中からネアンデルタール人は私たちと交配したをご紹介致します。

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人は私たちと交配した

ネアンデルタール人

現生人類であるホモ・サピエンスの亜種であるこの種は、長らく謎に包まれていました。

しかし、2010年にサイエンス誌に掲載されたある発見が世界を揺るがします。

それは、アフリカ大陸以外に住む現生人類のゲノムに、ネアンデルタール人の遺伝子が数%混入しているというものでした。

これはすなわち、我々現生人類とネアンデルタール人は交配していたことを意味します。

では、数万年前、私たちと彼らはどうやって交わったのでしょうか。

そして、その発見の裏にあった、ある科学者の30年以上に及ぶ苦闘とはどんなものだったのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 2010年、スヴァンテ・ペーボ博士等は、現生人類のゲノムには、ネアンデルタールのDNAが2~3%入っていることをサイエンス誌に投稿した。これはすなわち、我々現生人類とネアンデルタール人が交配していたことを意味している。初めての邂逅はおよそ6万年前、場所は中東周辺だと考えられている。

  • 本発見のためには、2つの問題を解決する必要があった。1つはDNAを必要量得ることである。既に死んだ生物のDNAは構造を維持しておらずDNAを回収しづらい。またそもそもネアンデルタール人の骨はあまりにも少なかった。この困難とも言える状況で、ペーボ博士は、DNA増幅技術「次世代シーケンサー」を発明し、同じ骨量から数百倍のDNAを回収することに成功する。

  • もう1つは現代のDNAの混入を防ぐことである。古代のDNAを分析するには、それと現代のDNAを分離する必要がある。しかしこれは相当に困難な作業であり、この困難な作業を怠らず、愚直に行ったことにより、人類史に残る業績は果たされたのだ。

  • ネアンデルタール人のDNA解析を完了した、ペーボ博士はその後新たな発見を行った。それはデニソワ人の発見である。彼によると、デニソワ人は現生人類よりネアンデルタール人に近い種であったらしい。まず現生人類と、デニソワ人とネアンデルタール人の祖先が分岐し、その後両者が分岐したと考えられている

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

生命・エネルギー・進化で描かれていた研究者像と重なる。つくづく、持てる技術を駆使し、人類とは何かという壮大な問いに、神という安易な逃げ道を作らず、愚直に向き合う研究者には尊敬の念を禁じ得ない。


本書を読んで感じたことは、なぜ種の分岐はなぜ起こるのか、というものだ。種の中での進化と、種自体の分岐は何が違うのか。その辺について、折をみて研究を行いたい。

まとめ

今回は、ネアンデルタール人と現生人類とのつながりについて説いたネアンデルタール人は私たちと交配したを取り上げました。

次回はZBC#63で発表された10万年の世界経済史をご紹介します。

Zenport Book Club #62:その他の発表図書、関連図書

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた

そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史

そして最後にヒトが残った―ネアンデルタール人と私たちの50万年史

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化

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ZBC#61 [複雑系とチーム] - TEAM OF TEAMS

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課題図書

今回は2017年9月9日に開催されたZenport Book Club #61の図書の中からTEAM OF TEAMSをご紹介致します。

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

  • 作者: スタンリー・マクリスタル,タントゥム・コリンズ,デビッド・シルバーマン,クリス・ファッセル,吉川南,尼丁千津子,高取芳彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
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チームビルディング

マネジメントの中心と言っても良いこのテーマは、現在大きな転換点を迎えていると著者は説きます。

すなわち「計画・実行型」組織から「適応型」組織への転換が必須であると。

その事実を、元米軍大将である著者は、自身の戦地での経験を基に解き明かします。

ではなぜ、現代では求められる組織が変わっているきているのでしょうか。

またその組織を構築するためにリーダーに求められる能力とは何なのでしょうか。

要旨を見ていきましょう。

要旨

  • 情報が世界を瞬時に周り、状況が絶え間なく変化する現代においては、指揮系統型の組織では環境変化に対応できない。このような複雑系の社会では、1つのチームの中に少数のチームが存在する組織(TEAM OF TEAMS)を作る必要がある。

  • 産業革命以降主流だったテイラーの科学的管理手法は、反復可能なプロセスを高効率で実施する場面では有効的だった。しかしこれは、変化が激しい現代では機能しなくなっている。現代の複雑さは予測不可能なため、計画と予測に基づく要素還元主義的マネジメントでは対応できない。

  • 状況に応じて、現場の人間が自由に対応する組織を作るには、情報共有の透明性を高める必要がある。ビジョンの共有、戦略の共有、最新状況の共有という各レイヤーの情報を全メンバーに共有する必要がある。

  • 現代のリーダーに求められるのは、菜園主的リーダーシップである。メンバーを見守りつつも手は出さない。組織が活動する生態系を作り、維持することがリーダーの役割となる。これは従来の、指揮系統型のリーダー像とは大きく異るものである。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

本書もイーロン・マスクも言っていることは同じである。すなわち、複雑系ではトップダウンは通用しない。個が自発的に動く必要がある。それに必要なのが、組織のビジョンの共有であり、組織のビジョンと個人のモチベーションの同調なのだ。


ハンニバル、ナポレオン、信長のようなリーダーに憧れる自分としては、現代で求められるリーダー像が彼らとは異なるという事実は少々残念である。しかしそれが時代の要請であれば従うほかない。

まとめ

今回は、複雑系におけるチームのあり方について説いたTEAM OF TEAMSを取り上げました。

次回はZBC#62で発表されたネアンデルタール人は私たちと交配したをご紹介します。

Zenport Book Club #61:その他の発表図書、関連図書

|新訳|科学的管理法

|新訳|科学的管理法

経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)

複雑系入門―知のフロンティアへの冒険

複雑系入門―知のフロンティアへの冒険

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

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ZBC#60 [フランス革命のきっかけ] - 帳簿の世界史

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課題図書

今回は2017年9月6日に開催されたZenport Book Club #60の図書の中から帳簿の世界史をご紹介致します。

帳簿の世界史

帳簿の世界史

帳簿

古くから商業で使われていたこの手法は、14世紀のイタリアにおいて非連続的な変化を起こします。

すなわち、複式簿記の誕生です。

かの有名なブルボン朝も、この複式簿記によって隆盛を極めた一方、その杜撰な扱いによって、フランス革命によって打倒されたと言われています。

帳簿、そして複式簿記が作りだした人類史。その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 帳簿の歴史は、そのまま人類の文明の歴史である。メソポタミア文明の遺産には、既に帳簿の記録を垣間見ることが出来る。その後、古代ギリシャ古代ローマでも帳簿は広く用いられた。しかしそれらは往々にして不正に満ちていた。しかし、この状況を打破するあるイノベーションが、中世イタリアで生まれた。それは複式簿記である。これは当時、イタリア商人が共同出資方式を用いて貿易を行っていたことに端を発する。

  • フィレンツェのコジモ・デ・メディチは、会計技術を駆使し自身の銀行の支店を欧州の主要都市へ発展させることで、欧州一の富豪となった。しかしメディチ家ルネサンス期に没落する。その原因は思想と商業の対立であった。当時流行していたプラトン思想は、芸術や文化を重視し、商業を忌避した。彼の後継者も同様に芸術に傾倒し監査を疎かにした。その結果、メディチ家は没落することになった。

  • 帳簿は王国の発展と衰退を招いた原因である。ルイ14世統治下のフランスはコルベールという宰相のもと、会計技術を国家運営に取り入れ、国家を発展させた。しかしコルベールの死後以降、会計技術を不正を明らかにするものと気づいたルイ14世は、それを遠ざけることになる。これが後のフランス革命の要因となる。

  • 帳簿は商業国家の栄枯盛衰を招いた。オランダ、イギリス、アメリカなどのヘゲモニー国家が覇権を握れたのは、会計技術を政権運営に上手く取り入れたからである。一方で皮肉なことに、彼らの衰退を招いた原因は、不適切に会計を行ったことであった。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

紙が生まれ、アラビア数字が生まれ、数学が生まれ、複式簿記が生まれ、銀行が生まれ、株式会社が生まれた。後に、ビットコインが生まれた。人の渇望と技術の進歩。それが推し進める時代の流れと文明の発展。私達が今立つこの場所は、点では無く線であることがよく分かる。人・技術・地政学が織りなす時代。人類史という線の有り様が、朧気ながら浮かび上がってきた気がする。


帳簿の裏に潜む栄枯盛衰の歴史は、テクノロジーを活かすも殺すも扱うもの次第であることを表している。火、ダイナマイト、核分裂と同じだ。人の性は巡るが、技術は進歩する。結果的に、変わっていないように見えて、実は人類史は前に進んでいる。

まとめ

今回は、帳簿の歴史について説いた帳簿の世界史を取り上げました。

次回はZBC#61で発表されたTEAM OF TEAMSをご紹介します。

Zenport Book Club #60:その他の発表図書、関連図書

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

ルネサンスの歴史(上) - 黄金世紀のイタリア (中公文庫)

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ZBC#59 [世界は廻る] - グローバル経済の誕生

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課題図書

今回は2017年9月2日に開催されたZenport Book Club #59の図書の中からグローバル経済の誕生をご紹介致します。

グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)

グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界 (単行本)

グローバル経済

この言葉は現代特有のモノと思われがちですが、実は600年以上もの歴史を有する言葉です。

その歴史を精緻に紐解いた、本書の著者であるケネス・ポメランツ教授は、グローバル経済をある1つの言葉で表します。

それは暴力

彼は、グローバル経済の進展においては、常に暴力を振るう者が富を手に入れてきたと断じます。

では、暴力はどのようにしてグローバル経済の中で影響力を誇ってきたのでしょうか?

その一端を覗いてみましょう。

要旨

  • 経済のグローバル化とは、現代特有の非連続的変化ではない。それは1400年代以来、脈々と続く漸次的変化である。

  • グローバル経済において大きな役割を担ってきたもの、それは暴力である。西欧がグローバル経済において覇権を握れたのは、疫病を用いて新大陸の原住民を死に至らしめたからだ。また、アフリカ大陸出身の大量の奴隷を、新大陸において労働力として酷使したからでもある。グローバル経済においては、モラルの有無は関係なく、暴力を振るうものが果実を手にしてきた。

  • グローバル経済を進展させたのはドラッグ的商品であった。薬として用いられたチョコレート、老若男女を虜にする砂糖、またアヘンなどのドラッグそのものが、グローバル経済を大きく発展させた。

  • 日本の開国の歴史も、世界史の文脈から見ると大変興味深く浮かび上がる。そのキッカケはアメリカでのゴールドラッシュだった。西海岸に金が出るという噂が、いまだ未開の場所であったこの地への資本の集積を実現させた。その資本力はそのまま、太平洋諸国への進出を促す。その動きはハワイ併合へとつながり、後の黒船来日、日米和親条約へと連なっていく。

参加者の見解

本書に対し参加者からは次のような意見が出されました

グローバル経済の歴史においては、暴力が富を手にする最良の手段だったという事実は残酷なものだ。ただこれは法の概念、人権の概念が不十分だったからだろう。現在においては、アングラな世界を除き、暴力が占める割合は些末なものになっていると考えられる。人類の残酷さと、少しばかりの希望を垣間見れる事象である。


情報、カネ、モノ。IT化によって、グローバル経済は最初の2つを場所の縛りから開放した。しかし未だにモノの移動のみは、場所の縛りを免れていない。私はここにグローバル経済の完成の糸口があるように思える。

まとめ

今回は、グローバル経済の誕生について説いたグローバル経済の誕生を取り上げました。

次回はZBC#60で発表された帳簿の世界史をご紹介します。

Zenport Book Club #59:その他の発表図書、関連図書

暴力の人類史 上

暴力の人類史 上

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

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