ZBC#53 [シュメールからシアトルまで] - 華麗なる交易
課題図書
今回は2017年7月22日に開催されたZenport Book Club #53の図書の中から華麗なる交易をご紹介致します。
- 作者: ウィリアム・バーンスタイン,鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/04/23
- メディア: 単行本
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国富論を著した経済学の巨人、アダム・スミスは、次のような言葉を残したそうです。
「人間には、ある物を別の物と取り換え、引き換え、やりとりする方向が、本質的に備わっている。この喜ばしい傾向は、まさに人間の本性なのだ。」
即ち彼は、交易とは人間の本質的な行動であると説いているのです。
ではこの交易は、これまで人類の歴史に、どのような影響を及ぼしてきたのでしょうか?
要旨を見ていきましょう。
要旨
世界貿易の起源、それは紀元前3,000年頃のシュメール地方(現在のイラク周辺)にまで遡る。この土地で貿易が起こった理由、それは肥沃な三日月地帯と呼ばれたこの場所が、豊富な穀倉地帯だったからである。この貿易圏は後に、西はロンドン、東は長安まで拡大していった。しかしローマ帝国が滅び、情勢が不安定になると、域内の商業活動は一気に縮小した。
貿易は続いて7世紀にインド洋周辺で大きく発展した。きっかけは、預言者ムハンマド、また彼が開いたイスラム教であった。商業の宗教であるイスラム教が糊の役目を果たす形で、インド洋周辺のいくつもの大規模な商業港が一体となって貿易圏を形成していったのだ。その影響は西はアンダルシアから東はフィリピンまで及んだ。また特筆すべき点として、この交易にヨーロッパ人は無関係であった。この状況は15世紀まで続く。即ち、彼らは実に800年程、世界の貿易の中心から締め出されていたのだ。
このイスラム教を中心とした貿易システムは1497年に崩壊する。きっかけはヴァスコ・ダ・ガマのインド到達であった。彼が喜望峰を周る通商航路を開拓したことで、ヨーロッパ人はインド洋周辺に進出し始めた。その後、ヨーロッパ人はインド洋周辺に交易体制を確立する。ここに、欧州による現代まで続く商業的支配が幕を開けたのである。
交易の発達に関係する要素として、政治的安定性がある。人類史上、交易は帝国の繁栄に呼応して発展した。ローマ帝国、イスラム帝国、元などの帝国が交易ルートの治安を整備することで、交易は発展してきた。
交易発達への貢献としては、科学技術、家畜の存在も欠かせない。帆船・蒸気船の建設、羅針盤の発明、また貿易風の発見が商人の活動範囲を著しく拡大させた。またラクダの存在は、アジア-ヨーロッパ間の陸路での移動を可能にさせた。
貿易の拡大はイデオロギーの対立も生み出した。すなわち自由貿易と保護貿易の対立である。自由貿易の拡大によって、世界全体は豊かになってきた。しかしその過程では、必ず衰退産業が生まれ、多くの場合、衰退産業の従事者はときの為政者に圧力をかけ、保護貿易を叫んできた。これは現代に至るまで相変わらず続いている。即ち、シュメールからシアトルに至る貿易の長い旅を経てもなお、人類は進歩していないのである。
参加者の見解
本書に対し参加者からは次のような意見が出されました
現代における貿易の発展、これはパクス・アメリカーナによるところが多いだろう。アメリカが、かつての帝国と同じ情勢安定の役割を担うことにより、円滑な交易が実現できている。しかしながら現在、パクス・アメリカーナは衰退の兆しを見せている。これは1つの、交易の危機とも見てとれるだろう。
本書を読んでみてもそうだが、宗教、地理、気候、家畜、技術、資源等の複数のパラメータは相互に作用しあい、必然なる現在を作っていることが分かる。粗いモデル化にはなるが、複数のパラメータから時代を導く、謂わば時代方程式なるものが作れそうな気がする。出来次第、ブログにて披露したい。
まとめ
今回は、交易の歴史を綴った華麗なる交易を取り上げました。
次回はZBC#54で発表された失われた夜の歴史をご紹介します。
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